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フォー・ディア・ライフ (ねこ3.8匹)

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柴田よしき著。講談社文庫。


無認可保育園の園長である花咲慎一郎は、元刑事であり過去に傷を抱えていた。経営が苦しい
保育園をなんとかするため、時には副業で探偵としてヤバい仕事も引き受ける。今回の依頼は
ヤクザの事務所に監禁された少年の保護。そして、13歳の家出少女の捜索だった。そして
花咲は事件に巻き込まれてゆくーーー。花咲シリーズ第1弾。


柴田氏のシリーズ群の中でも人気が高いと思われるこのシリーズ、巷では花咲のニックネームから
「ハナちゃんシリーズ」として親しまれているものらしい。
文体は花咲(どうしてもハナちゃんとは呼びたくないようだ)のハードボイルド調の一人称。
重い過去、裏稼業、語り口、百歩譲ってもそういう呼称は似合わないのだがそれが
「にこにこ保育園」の可愛い園児達の存在、彼の他人の為に叫び、傷つく事が出来る優しさと
融合してこの個性ある作品世界を構築しているといった感触。

展開はすこぶる強引であり、ミステリーとしては相変わらず注目すべき点は見られない。
文章も、「もう少しここ違う言葉使えないかな?」とは時折感じるし、間違った言葉の用法が
気になった事もあった。そこはしかし、読んだのが京極夏彦宮部みゆきの後だから^^;

本書の魅力は、花咲の個性的すぎず奇を衒わず、それでいて平凡でない、がんばる青年の
キャラ。彼の周りをとりまく個性豊かで人間味のある登場人物。そして現代日本
不法就労者問題、融通の効かない日本国籍取得の不自由さから生じる不具合を
ライトに、かつ当事者の目で描き抜いた作者のパワーだろうと思う。
印象的なフレーズも多く、クライマックスは普通に温かい気持ちになれる。

多少荒削りだが、それでも読ませる面白い作品であることは保証する。面白い作品を
提供しようという作者の意気込みがかいま見える。
そういうのって読者として嬉しいじゃないか。