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凍える島 (ねこ3.6匹)

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近藤史恵著。創元推理文庫。第4回鮎川哲也賞受賞作。

あやめ達「北斎屋」の従業員と常連仲間一行は、休暇旅行で瀬戸内海のS島へやって来た。この島は
新興宗教の聖地だと言う。集まった8人の男女は、それぞれ内部に事情を抱えていて少しいびつな
雰囲気。当のあやめは、詩人の鳥呼と不倫関係にあった。やがて鳥呼の妻、奈奈子が密室の中
遺体で発見されるーー。


なんと、かの貫井徳郎氏の『慟哭』を押しのけての受賞作だそう。それだけで驚き。
だけど、読了してしまうと別に『慟哭』が受賞しても良かったんでないかい?と思ったのは
自分の好みだろうか。文体や文章センスなどは圧倒的にこちらの方が自分向きではあるが。

やたら目につく主張された片仮名表記(「モォタァボォト」「ビィル」「セエタア」など)は
何らかの効果を狙っているのだろうが、せっかくの読みやすい綺麗な文章の邪魔をしているように
感じた。それさえなければこの流れるような小説世界と、相変わらずのどこかにいるんだよね、
的な女性心理の触れられたくないリアルさは好ましい。時々登場人物の心理や台詞から受ける
不快感はそれゆえだろうか。先日、冴さんとも語り合った?が、「こんな女はいないぞ」という
腹立ちとは別物なので、「好ましい」以外の表現を思いつかなかった。

このトリック、仕掛けはしてやられた、という悔しさでいっぱいになった。
「地の文で嘘をついてるぞわははは!つっこんでやるぅ~」という私の鬼の首をとったような
優越感?は最後のどんでん返しで見事にその鼻をくじいてくれた。
動機や心理などは理解不能だったが、これもまた「こんな人間いないぞ」に流れる性格のものでは
なく、新興宗教、絶海の孤島という設定に妙に似合う。
総じてなかなかの面白い作品だった。