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ワイルド・ソウル (ねこ3.9匹)

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垣根涼介著。幻冬舎

戦後の日本。移民政策で、ブラジルの果てた地へ追いやられた日本人家族。パスポートを取り上げられ、
訴えも聞き入れられないままアマゾン牢人として悲惨な運命を多くの人間が辿った。家族を病気で
失い、生死を彷徨った生き残りの彼らが、栄えた現代日本で外務省への復讐を誓う。


前半、騙された3人の男たちとその家族の悲惨な運命と、その苦労、そしてブラジルへ
やって来てからの生い立ちが綴られる。日本の外務省の、「口べらし」とも言える政策の
悪質さと無責任さ。そして、移民制度の驚くべき実態がリアリティと説得力を持って
突きつけられる。我々のゆとりある生活からは想像を絶するそのアマゾンでの移民生活。
彼らの日本政府への恨みは生々しく、彼らの怒濤の人生が容赦なく、垣根氏の鋭い着眼と
圧倒される取材力を持って惹き込まれる。

後半は、遂に始動する彼らの復讐劇。元人気キャスターの貴子が登場し、報道の迫真さに迫り、
復讐者であるケイとの恋愛がめくるめくスリルとなって興奮させられる。
後は読んでのお楽しみ。

全体的に男臭く、ハードボイルドな内容だが、無視すべきでない移民政策の恐ろしさと
性悪説というテーマ、物語としての面白さをとっても女性向きでない、なんて事はないと感じる。
意外にも暴力的ないわゆる「殺し合い」に発展するような「ドンパチ」展開にはならず、
それが物語として登場人物のポリシーなのか、垣根氏の人間性なのか、
復讐が復讐を呼ぶような終わりのないただのアクション小説ではなかった。
それが地味だと言えば地味かもしれないが、この「棄民政策」とも呼べる問題と
真っ正面から取り組み、先を見通した、今後同じ過ちを犯させないが為の確信的なものだろう。

かと言って、難しい理解しづらい小説ではない。取材の成果か、ご本人がこの問題に
誠実にアンテナを張り、わかりやすく要所を押さえた作品となっている。さらに、
先行き不安なドラマティックな恋愛を織り交ぜて、エンターテイメントとして
ツボだけを追求した面白い小説としてほどよいまとまりを見せている。
作者の気合いも十分、自信作と言って憚らない垣根氏。こちらも納得の1冊。