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透明人間の納屋 (ねこ3.2匹)

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島田荘司著。講談社ミステリーランド

母子家庭のヨウイチは、孤独な少年。自宅の隣にある印刷所の真鍋さんとの交流が心の支えだ。
しかし、真鍋さんの妹、真由美さんが意地悪な人で、いつもヨウイチと母の文句ばかり言って
真鍋さんと喧嘩してる。しかも真由美さんは自分が宇宙人だなんてとんでもない事を言う。
それが目下の悩みだ。
ある日の事、ヨウイチは真鍋さんの印刷所で不思議な液体を見つけてしまう。これが
人間を透明人間にする薬らしい。透明人間は実在するのだ。やがて、あるホテルで
まるで透明人間の仕業としか思えないような密室殺人事件が発生しーーー。


こりゃこりゃこりゃ、島田さん(^^;)。。
大人向けの児童文学、ここに登場!
冒頭から始まる科学談義にまず目が点なわたし。
そして堂々とさらけ出される醜い大人の悪意。多少言葉には気を使っている気もするが(あくまで多少)
思わずヨウイチ君の耳を両手でふさいであげたくなった。でもそれが出来たとしても糠に釘。
ヨウイチ君の目が、子供にとっては恐ろしい、知りたくない大人の罪を捉える事になってしまう。

私の目も点なまま、物語は透明人間という非現実的なものの手による現実的な殺人事件へと
突入してしまう。この時点でもまだ面白くない。冒頭の衝撃で、私の中ではもうこの謎は
置いてけぼりである。透明人間はとりあえず興味を持ったが、真鍋さんとヨウイチ君の関係、
ヨウイチ君とそのお母さんとの関係に私の目は釘付け。

やっと面白くなった。密室のトリックははっきり言って「だから何だ」という種類のもので
残念だったが、自分の興味を持った方へ物語が流れて行ったので良し。
少年が成長し、何かを学び、感情を放出させてくれた。彼との出会いに意味があった。

時事問題を扱った事にはチャレンジ精神も感じるが、本書はだからというわけでもないが
完全に大人向けだろう。子供が読むと想定すると、私なんかは自分を振り返るしかないが
本書は受け付けないだろうなと思う。子供の頃の方が本が好きだったんじゃないかと
思える程本が大好きだった自分だが、自分の好みは恐怖ものや友情もの、冒険もの、あるいは
どこか風刺的なものだった。大人の醜さや社会の歪みを描くにしても、ファンタジックだったり
ナンセンスな世界だったり動物に模していたりと、興味を持てる何らかのオブラートに包まれて
提供されていたように記憶する。本書のような、ストレートなものには免疫がない。
だから児童書としてどう評価していいか、もうしばらく考えてみなければ難しいかもしれない。

大人の感想としては、まあ普通に面白かった。
先日挙げたマイランキングの、8位「くらのかみ」の下くらいか。(悪いじゃん)