すべてが猫になる

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MISSING (ねこ3.7匹)

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本多孝好著。双葉文庫。2000年「このミステリーがすごい!」第10位作品。

透明感あふれる、ちょっと不思議で切ない5つの物語。収録作「眠りの海」で第16回小説推理新人賞
受賞。デビュー作です。


先日、光原百合氏の「十八の夏」がなかなか良かった、と言ったら「ならこれはどう?」と軽く
お薦めされたのがこの本多さん。しかしお薦め本のタイトルが「英語だった」事くらいしか
覚えていなかったので、本屋で本多氏の作品が全て英語である事実を目の当たりにして慄然とする。。
ええい、表紙綺麗だしデビュー作だし何か賞とってるし多分これだろう、えらさほいさと選んだのが本書。
多分、正解だったんだろうと思う。とは読了してから感じた手応え。

表紙の少女が透けているのが美しい意匠だが、これはまんま「透明感のある」本多氏の文章、
世界を表現していると思う。1話目「眠りの海」があまりにも先が読め、ピンと来なかったのだが
2話目「祈灯」で読み方を間違えていた事に気付く。自宅に帰ると、当然のようにそこにいたのが
自責の念から自分を死んだ妹だと思い込んでいる「幽霊ちゃん」。(幽霊じゃないよ)
その状況を受け入れている登場人物。本来ならじんましんの出る設定だが、これは空想と
精神の文学だ。

悪かったわけじゃないし、どこが良さなのかもわかる。文章にセンスがあり、思わず抜き出したくなる
フレーズが毎話飛び出して来る。様々な生きる上のアドバイス、でも決して答えは
描いてくれない。それをさらりと表現できるのは明らかに実力派。
ただ、自分の好みではなかったというだけだ。ごめんなさい。
この爽やかな文章から異質な展開とも読める悲しさ、切なさ、重さは「余韻に浸る」種類の
ものではなかった。ちょっといいものに触れたな、という爽快感だけなら受け入れられたが、
要は自分は甘ちゃんだと言うことだ。作品は良い。