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白戸修の事件簿 (ねこ4匹)

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大倉崇裕著。双葉文庫

白戸修。どこにでもいる平凡な大学生が、東京・中野で巻き込まれる様々な事件。
スリの尾行、違法看板設置のアルバイト、銀行強盗の人質、ストーカー撃退、万引保安員、、
5編収録の短編集。


またしても冴姉貴のおすすめ本。うひょひょ。大当たりでございますよ。
作家の知名度(私だけが知らなかったのかもしれませんが^^;本書の1編で
『小説推理新人賞』なるものを受賞されているし)といい、私があまり寄り付かない
双葉文庫出版といい、ひねりのないタイトルといい、とぼけたこの表紙といい、
教わらなかったら絶対知らないままでした。うはうは。

巻き込まれ型というのは実に面白い。
職業も探偵ではない。
よくある本格ミステリの巻き込まれ型というのは、一定の設定パターンというのがあるもんだ。
探偵でなくとも、少なくとも主人公に行動力、好奇心があって自分から事件を呼び寄せているという
ケースの方をよく見る。そして名前に個性があり、変に一匹狼だったり、人徳があって
頼られたり、文章でも既成作家の有名作品や探偵役を引き合いに出したりして
読者を惹き込みやすくする。
この作品にはそれが一切ないのだ。白戸修なんていう平凡な名前はもとより、
おあつらえ向きのワトスン役すら出ないし、そもそも本人が読書すらしないと言う。
つまり、これは本物の巻き込まれ型ということだ。

実際、このキャラに惹かれたわけでもないが。白戸修でも岡田勉でも林健二でも
そんなものはどうでもよろしい。
しかし、平凡だからこそ、である。平凡な平凡な青年が巻き込まれる様は実にみものだ。
一見これといった趣味もポリシーも彼女もなさそうだし(興味も湧かない)、
「これが俺の生き様だ!」といった暑苦しい個性も皆無。社会に憤ったり、
他人に掲げるべきモラルさえアピールがない。
だからこそ、彼の頭脳、行動には驚くべきものがある。
気が弱いのだが責任感が強く、どんくさいのだが優先するべき気持ちを失えない優しさ。
発言をひっくり返すがこれこそが魅力、小説で力を持つキャラクターだ。

そして、普通に物語、事件の展開ももちろん面白い。
先が読めないのは当然のこと、ミステリ読みの悪いクセである「こいつもしかして
何かあるんじゃないのー?」といった懐疑心が後になって恥ずかしくなるような
いい意味での「意外な展開」の応酬。もちろん裏読みしたままのものもあるが。
とにかく物語の締め方がいい。
短編なら特に、最後の1行をどう持って来るかだ。
お気に入りはその条件を十二分に満たしてくれた『セイフティゾーン』『トラブルシューター』
『ショップリフター』。つまり最後の3作。

誰が読んでも面白いという感じではないが、当たればお宝である。
他の作品もどんどん手をつけてみたい。めちゃくちゃ大当たりは言い過ぎ、
本書がベスト1になるかどうかわからないという感触だが、その方がいい。
先の楽しみがあるからね。