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とり残されて (ねこ3.8匹)

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文春文庫。

7編収録の短編集です。
10年以上前の作品ですね。特にどなたかにおススメされた訳でもなく、私自身馴染みの無い
タイトルでしたが、読みやすそうだったので。そして表紙がこわい。


『とり残されて』
 過失で婚約者を殺された女教師が、学校のプールで女性の死体を発見する。そこまでは
 普通に興奮ぎみに読みましたが幽霊?が出て来たのにはちょっと動揺しました。。
 ミステリーとしても楽しめますが、心を救うというこの展開に宮部さんらしさを感じます。

『おたすけぶち』
 通称「おたすけぶち」から車で落下した兄。車には友人3人が同乗しており、運転者は不明。
 兄の死体だけはどうしても上がらなかった。それから20年、裁判が続き主人公は兄の
 事故現場へ赴くーー。
 閉鎖的な村の存在が不気味でいいですね。これを短編でまとめたのには脱帽。個人的に
 一番好きなお話になりました。こういう不気味さは大好き。そして、これを宮部さんが
 描いたというのがポイント高かったです。

『私の死んだ後に』
 右腕が上がらなくなったピッチャー。ある日、彼は事件に巻き込まれて何者かに刺されてしまう。
 目を覚ますと、そこにはある女性がーー。ここはどこだ?自分は死んだのか?
 若干きれいごとに近いというか、私にはなにげに眩しい展開ですね。ストーリーとしては
 ラストの真相含め意外性があって面白いと思います。

『居合わせた男』
 ある男が、偶然グリーン車で乗り合わせた2人のOL。彼女達の会社で、不思議な事件が
 たて続けに起きたというがーー。
 これ、好きですね。乗り合わせてからの女性達の積極的というには馴れ馴れしすぎる
 展開はちょっと引きましたが(んな事言ってたら話が始まらないし)。。
 社会の側面を描きつつ、人間の哀しさと現実性を表しながら、ミステリーとして
 成立しています。短編ならではの切れの良さ。

『囁く』
 わずか数ページの作品ですが、読ませます!ちょっとしたホラーですね。会話で十分
 スリルを生んでいます。
 ただ、この素晴らしいオチを生かすのに、1ページ前でネタをほぼ割っている台詞があったのが
 めちゃくちゃ残念!

『いつも二人で』
 留守番をしていた家で、目が覚めるとなんと男は見知らぬ女の幽霊に取り憑かれた!
 わりとコミカルで、女性に翻弄されている男がなんだかかわいそうでちょっとおかしい。
 タイトルの意味をラストまで勘違いしてました。

『たった一人』
 探偵事務所を訪れた女の依頼は、自分の見る夢が実在するか調べて欲しい、という奇妙なもの
 だった。
 あとがきでもラストシーンが絶賛されている、宮部氏の本領発揮の秀作とのこと。
 「とのこと」って読んだくせに他人事ですが、私はちょっと唐突すぎて苦手でした。


情景描写の秀逸さや、表現力の上手さ。たった一つの台詞で全てを表現するセンス。
褒め言葉には枚挙にいとまが無い宮部氏ですが、実は私は宮部氏の「ラストシーン」は
たいてい苦手に感じる事が多いんです。さっき書きましたが、締め方が唐突に感じてしまって
なかなか「感動」が出来ない。これは好みとしか言いようがないのですが。
じゃあなぜ読むのか?と言うと、「面白いから」というだけだったりするんです、私の場合。
こういう有名でない作品でも、一つ一つ芯があってテーマがあって読ませてくれるので
ラストがどう落ちてもそれほど重要じゃないというか。
読者としては優秀でないかもしれませんが、楽しい時間を確実に提供してくれるという
安心感と信頼。自分が宮部氏を読むのには十分な動機です。