旧友の招きでスタイルズ荘を訪れたヘイスティングズは、到着早々事件に巻き込まれた。
屋敷の女主人が毒殺されたのだ。難事件調査に乗り出したのは、ヘイスティングズの親友で、
ベルギーから亡命して間もない、エルキュール・ポアロだった。
「灰色の脳細胞」と口ひげが自慢の愛すべき探偵ポアロ、登場第1作目にして
著者の記念すべきデビュー作である。
本作を何度読んだか数えてないが、新訳を読んだのは初めて。字も大きく、かなり
読みやすくなっていて喜ばしい。と言っても旧訳でも読みにくいと思った事はないが。
問題は他文庫より1センチほどサイズが縦に長くて文庫カバーが使えないことぐらいか。
後、ハヤカワ文庫にはマシュー・プリチャード氏による前書きが記されているが、
老婆心ながらこれは最初に読まない方がいいとアドバイスしたい。本作の犯人についての
ヒントが意識的に記述されていて、カンのいい読者なら気付いてしまうのではないかと推察する。
さてさて、本書のお話。
これでもか、という程に本格推理小説のスタンダードを行く小説である。
裕福な老婦人に二十歳下の夫、怪しげな家族と屋敷に出入りする医者達。発生するのは
毒殺事件、おあつらえ向きに容疑者の中には毒理学者や薬剤師もいて、動機も揃いに揃っている。
ポアロが目をつけたのは絨毯のしみや手紙入れにささっていた鍵、緑色の繊維ーー。
連続殺人でない点や、密室ものでなく「機会と動機の問題」という点で、難易度は
高くはないと思う。読みどころは「犯人は誰だ」。純粋に、ポアロが犯人だと指摘した
人物に「お、お前だったのか!」と驚いて欲しい。
はっきり言って、私は15年前から本書の犯人を知っている(どーん)。だが、
何度読んでもあの緊迫のシーンにはどきどきする。新訳だからどうかなー、あの台詞、、
という危惧も、ますますかっこ良くなったポアロの言い回しで雲散霧消。しびれた!
私は本書を「なかなか面白い!好きだぞ!」グループに所属させている。ちなみに、
一番の「超お気に入り。家宝!」グループに次ぐ二番目のお気に入り位置。
これからクリスティ女史に挑戦する方は、本書からあたられるのもよいかも。
ポアロの愛らしさは既に健在だし、ヘイスティングズのお人好しぶりも大いに発揮されていて
きっとこのコンビに夢中になってくれると思う。
※日本公論社「スタイルズの怪事件」
※講談社「スタイルズ荘の怪事件」
※新潮文庫「スタイルズ荘の怪事件」
※角川文庫「スタイルズ荘の怪事件」
※創元推理文庫「スタイルズの怪事件」