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最悪 (ねこ5匹)

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奥田英朗著。講談社文庫。


バブルがはじけ、不況の煽りを食った鉄工所社長の川谷は、工場が立てる騒音への
住民からの苦情と、取引先との軋轢などに頭を抱えていた。
銀行員の藤崎みどりは、妹の非行と会社でのセクハラ、人間関係に悩んでいた。
孤独な二十歳の青年、野村和也は、友人と組んでやった窃盗に失敗し、
ヤクザから追い回される事になった。
三人の人間模様。そして、それぞれ事態は最悪の一路を辿る。
無関係の三人の人生は、ある事件をきっかけに交じり合ったーーー。



こういった辛い人生を描いた犯罪小説は、どうしても物語に入り込みすぎてしまい
かえって身につまされるのが通例でした。そして、ラストが尻すぼみであったり、
想像の余地を残したり、いかようにも解決してなかったりして不満が残る。
それが最近の傑作と言われるサスペンスを読んだ時の定石になってしまっていました。
それはそれで良いのだけれど、やはり自分はそういうのが体質に合わない。
結局自分は根が古いというか、融通が利かない人間なのかもしれない。
最近で読後すっきりしたと言えるのは、「火の粉」ぐらいでしょうか。

途中までは大変スリルを味わい、好感触、高得点を予感しながらも
「最後次第だよね」と及び腰にもなっていました。
それが、どうだ!
それぞれの人間同士が接触した後のめくるめく素晴らしいドラマ!
大団円にしろとまでは思っていない。でも、ここまで彼らの人生に付き合って来た以上、
小説は終わっても彼らの人生は私の想像の中で続いて行って欲しい。
それが、少しでも未来の扉を叩くものであれば言う事はない。
そして、罪は罪で償ってもらわなくてはいけない。形だけではなく。

この物語は、三人の人間の視点で描かれているけれど、
実はそれぞれ決して共感はしていません。一番夢中で読んだのは騒音と融資問題で悩む
川谷だけれど、騒音に苦しむ住人サイドからの描写は全くない。視点が川谷なので
読者は川谷に同情するような描き方になってはいるけれど、そちらの問題も
イヤな奴らだと一蹴していいものではないと思います。
銀行員も、あまりにも自分と世界が違うので(いや、一番この中では合う道理があるはずだけど)
何とも言えないし、和也に至っては言わずもがな。


と、固い事ばかりをうだうだ並べ立ててしまったけれど、
とにかく自分は感動し、非常に有意義な時間を過ごせました。
面白い本は、「面白い!」これだけでいいのだ!
このクライマックスには何の不満もない。
ここ10年間の、自分のベスト1小説だと公言します。

例によって記事ではオススメ活動は自粛しますが、これだけは言っておかなくては。

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