ドナルド・E・ウェストレイク著。文春文庫。1993年「このミス」第5位作品。
中堅作家のウェインは、二十年ぶりに同業者であるブライスと再会した。
ウェインは売れない冴えない作家、対してブライスはベストセラー作家であった。
ウェインは作品はあるが出版社に恵まれず、ブライスはバックに出版社を持つが
作品がなかった。
ブライスが出した提案は、「君の小説を俺の名前で出版しよう」というものだった。
収入は折半。おいしい話だが、一つ条件があった。ウェインがブライスの妻を
殺さなければならないのだ!!
前作「斧」が面白かったので読んでみました。シリーズ物ではありません。
この方は、ユーモアミステリで有名な作家だそうですが、本作と前作「斧」は
完全なサスペンスホラーです。クスリとも笑えません。
刑事も登場し、捜査の手が伸びるかどうか追いつめられるか否かーー、という
シーンもあるにはあるんですが、そっちは物語のメインではありません。
と言っても、もちろん倒叙ものとしてそのスリルを楽しむ事も出来ます。
ウェインの目先の欲に溺れる様と、行動を起こしてからの彼の心理が移行して行く
姿が恐ろしい。ここが物語の肝ですね。
一線を越えちゃいけません。
自分名義の本を出す、というのがいかに抗いがたい誘惑か、というのが
ベースとなっていると思います。理解の範疇ではありますが、ここまでやってしまう
原動力が結局それなんだという事が少しうすら寒くなりました。
そしてこのラスト2行。これで作品の全てが決まった!と思いました。
気分の良くない仕上がりとなっていますが、このキレの良さは天下一品。