すべてが猫になる

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ぼくのミステリな日常 (ねこ4.7匹)

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若竹七海著。創元推理文庫

デビュー作です。12本+プロローグ&エピローグ、もう1本。連作短編集ですが
これは連作長編というのが正確でしょうか。
本作の感想をネタバレなしに書くというのは結構ハードル高いぞ、と
気合いを入れて挑戦してみます。(しかし少し内容が詳細になるので未読の方で
先入観を持ちたくない方などはご注意を。。)


主人公は「真田建設コンサルタント」に勤める若竹七海。彼女が社内報の編集長に
抜擢され、毎月短編小説を載せることに。しかし予算がなく、アテにしていた
先輩にも辞退され、とほほな状態。そこへ、その先輩は「自分の知り合いが
事実を脚色したなかなかいい小説を書く。匿名でいいならそいつに頼む」という案を
出して来た。七海は条件を承知。そして月刊「ルネッサンス」無事創刊!

ーーというのが事の起こり。
そのプロローグが「配達された三通の手紙」というのが粋ですね。もちろんここを
読んでいただいてる方はご存知でしょうが、エラリー・クイーンの傑作「災厄の町」の映画
タイトル「配達されない三通の手紙」をもじったものと思われます。
まあ、作品同士接点はありませんが。。

やはり12本の短編という体裁なので、プロローグと社内報の広告ににんまりしながらも、
休み休みゆったりと読んでおりました。とにかく文章が魅力ある作家ですので、
しっかり読みたい。情緒的でスマートでありながら、私の好む「毒」もふんだんに
盛り込まれているし、1編1編が秀作です。特に、「鬼」「写し絵の景色」が
大好きでした。好みがわかりやすいでしょう、私^^。

とは言ってもその時点ではやはりいつもの「うおお~!」という奇声を発するほどではなく、
「いいのはいいけど、『いちごタルト事件』シリーズよりは好みでは劣るかな。。
4.2匹くらいになるかな。。いやいや、トロピカルパフェを4匹にしてしまったから
3.8匹くらいで……」と意味不明なブログ記事についての空想に想いを馳せておりました。

それが、12本の短編を読了し、「編集後記」「エピローグ」へ突入したあたりから
まるで「欽ちゃんの仮装大賞」の採点のように「ど、どど、どどどどど!」と急上昇。

普段、「読者への挑戦」が挿入された形式のある本格ミステリや「ノンストップ傑作
誘拐サスペンス!ラストの驚愕の真相!」というほにゃららトリックものに慣れている
自分は、この作品のような正体の見えない小説には実に弱い。いや、見えているつもりに
なっていたというフェイント攻撃と言うべきか。

そして、短編ではあまり魅力を感じなかった「ぼく」が正体を現した時、
なぜか電光石火の勢いで惹かれてしまう自分がいました。これがこの魅力的な作品を
描いた方ね!!と。
そこで、いや待て、描いたのは実際若竹さんだから。と作者の掌で踊っている自分に
ちょっと苦笑したりも。これって結構大技では?私が単純なのかしら^^;


これがデビュー作というのが信じられない。実は何度も「本書がデビュー作、本書が
デビュー作、」と著者紹介欄で確認しました。(知らずに読んだもので^^;)
実は恥ずかしながら若竹さんの作品に触れるのはまだ4冊目。現時点でハズレはなし。
でももう既に私はこの作家の大ファンになってしまう予感をひしひしと感じています。