すべてが猫になる

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イン・ザ・プール (ねこ4.4匹)

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奥田英朗著。文春文庫。


5編収録の連作短編集。


伊良部総合病院地下にある神経科医師、伊良部一郎。
声はかん高く、色白で超肥満、注射が趣味でとにかく変人。診察に来た
ちょっと変な患者たちですら「こいつは変だ」と不安になるほど。
プール依存症、陰茎強直症、妄想癖、ケータイ依存症、強迫神経症
さまざまな症状の患者が伊良部と共に体験する奇妙な出来事の数々。


あ、これちょっと話題になってた本じゃん。文庫落ちしてるじゃん。
なんかこの表紙ニルウ゛ァーナみたいじゃん。安いじゃん。読もうじゃん。
……と軽い気持ちで綾辻さんや横山さんなどのメイン本のついでに購入した本。

いやはや、「期待していない」というのは最高の調味料と言ったのは誰だったか。
え、誰も言ってない?

期待してなかったわけではないけれど、(著者の知名度も合わせて)
背表紙のあらすじやら雰囲気を見る限り「好みじゃなさそう」とは思っていました。(なぜ買う)
本作を読まれている方はおわかりでしょうが、私の読書傾向から見て
ゆきあやが手を出す本ぽくはないと思っていただけますかしら。


これがまた、とんでもなく好みで。ええ。
1話目からかぶりつき、短編集を一気読みという邪道ぶり。
碌な診察もせず、無茶なアドバイスと無意味そうな注射しかしない変な医者が
最後には必ず仏陀かと見まごう世界一のカウンセラーかと錯覚してしまう。

患者の悩みはそれぞれ深刻で、普通の人なら必ず経験するようなレベルの
ものではない。普通ならそこで登場人物と一線をおいて物語を眺めるものですが、
症状そのものは遠い世界の出来事でありながら、
そこに与えられるべきアドバイスやメッセージは決してリアリティのないものではない。
むしろ、お前にも心当たりがないか?と胸に手をあててしまうような
普遍的なメッセージが込められている。

好みやジャンルを超えて届く本に出会えた時が一番うれしい。

普段、極力こういう事は書かないようにしているのですが、
あらすじを見て抵抗がなければ(好みはありますからね)
是非色んな人におすすめしたい本です。