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時の誘拐 (ねこ3匹)

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芦辺拓著。講談社文庫。

1996年「本格ミステリベスト10」7位ランクイン作品。


府知事候補の根塚成一郎の娘が誘拐された。
犯人が現金運搬役に指名したのは、根塚家とは何の関係もなく、巡回騎士団
「ラウンディング・ナイツ」に所属する阿月だった。
狡猾な犯人に、警察も阿月も翻弄され、まんまと現金を強奪された警察は
阿月に疑いを向ける。
阿月が汚名をはらすべく依頼したのは、弁護士である素人探偵の森江春策であった。



前半の社会派を彷彿とした手に汗握る狡猾な誘拐劇と、後半の森江の推理劇。
その2点が非常に面白かった作品でした。

地元だけに、馴染みのある地名が頻出するので、犯人の使ったルートが
果たして現実でどうなっているのかを確認したくなったのも楽しめた要素。

誘拐犯が現金を強奪するためには必ず運搬人と接触しなければならず、
また、警察が必ず介入することを計算に入れ、連絡(逆探知など)にも
神経を使わなければならず。その各難所をいかにこの犯人がクリアして行くか、
それがこの作品の一番のハイライトであり、犯人が現金を強奪する手段も
予想外で読ませてくれました。

しかし、某漫才師のネタじゃないですが、ここで面白くなかったら後に
面白い所はないですよ、という印象。


中盤から挿入された、昭和24年に起きた犯罪。
かなりここが間延びしているというか、前半とはあまりにも「面白さ」に
格差があったように感じます。
法廷での対決も、緊迫感に欠ける気がしましたね。

終盤での森江春策の活躍がまた一転して惹き込まれるのが救い。
ミステリの肝はここですから、肝心の論理が意外であって緻密であって、
評価の全てここに絞っても良いかもしれません。

読む価値はかなりあり。


ただですね、この作家の文章は個人的に退屈で魅力に乏しく、
苦手かもしれません。悪いわけではなく、
まるで可もなく不可もない教科書のような。。