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正月十一日、鏡殺し (ねこ3.9匹)

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講談社文庫。


7編収録の短編集です。
いえ、傑作集です。
1話目の「盗聴」は、読むなりどうしようかという程につまらなかったのですが
まあこれは読まなかった事にして語りましょう。


「逃亡者 大河内清秀」
いきなり奇抜なタイトル(ただの人名ですが)に、一体どういうストーリーが
待っているのかと思ったらやはり展開が突飛でした。。展開が、というより
元々の着想が奇抜というものでしょうか。

「猫部屋の亡者」
ホラータッチの作品ですね。
仕掛けはわかりやすいのですが、数度繰り返される「亡者」の幻聴が効果を上げていて
読ませてくれますね。だんだん主人公が壊れる様がリアルです。
でも、猫マニアという要素を除けば、現実にこういうカップルどこかにいそうな気がして。
モチーフをうまく使ってますね。

「記憶の囚人」
詩といい、設定といい、面白い試みをしていますね。
荒すぎるんですが、合間にこういうのがあると歌野さんの引き出しの多さに
ちょっと感心します。

「美神崩壊」
これは女性には辛いほどに男性心理がリアルです。全ての男性がこうだとは
信じませんが。
楳図かずお作品をちょっと彷彿とさせました。

「プラットホームのカオス」
サスペンスです。男性教師が主人公なのですが、このページ数にこれだけの量の
テーマを盛り込み、それが成功している良い作品でしたね。

「正月十一日、鏡殺し」
姑と娘と暮らす主婦の心の葛藤が描かれ、それが狂気へと変貌して行く。
実にうまい。あるオチが待っているのですが、それが功を奏したのはやはり
鏡餅という材料をうまく使い、娘の心の動向を効果的に描いた結果でしょうか。



ざっと感想を並べました。

以前より、歌野氏は当たり外れがうんぬんと語って来ました。
が。もう大丈夫じゃないでしょうか。

「ROMMY」→本作、と読んで来て、従来より歌野氏が備えている自由で型破りな発想が、
一定以上のテクニックを身につけて
生き生きとした作品を生み出せる作家となった気がしました。

この作品はしかし全く評判を聞いていないのですが、
皆様はいかがでしたでしょう?