すべてが猫になる

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世界の望む静謐  (ねこ4.3匹)

倉知淳著。東京創元社

あなたのことは、最初から疑っていました――漫画家を殺してしまった週刊漫画誌の編集者、悪徳芸能プロモーターを手にかけた歌謡界の元・スター、部下の裏切りに報復する人気タレント文化人、過去を掘り返そうとする同僚の口を封じた美大予備校の講師……彼らは果たして、いつ、何を間違えてしまったのか。罪を犯した者たちの前に、死神めいた風貌の警部が立ちはだかる。〈刑事コロンボ〉の衣鉢を継ぐ、大人気倒叙ミステリシリーズ!(紹介文引用)
 
乙姫警部シリーズ第2弾。黒いスーツに黒いネクタイ、痩せた頬に尖った顎、悪魔のような鉤鼻に大きな耳、地獄の亡者のような瞳――我らの(?)乙姫警部がさらにその不気味さをパワーアップさせて帰って来た!!このシリーズめっちゃ良かったので続編とてもうれしい。それぞれが100ページ強の中編スタイルなのも読みごたえあり。
 
「愚者の選択」
数十億を生み出す大ヒット漫画家が連載を止めたいと言い出した。なんとしても阻止したい編集者は衝動的に彼を殺してしまうが――。この漫画のモデルは名探偵コナンあたりだろうね。たったあれだけの痕跡で犯人を特定してしまっていた乙姫警部は凄いな。最後の2行が奥深い。殺すことで次の連載を阻めたことだけは後悔していないような印象を受けた。
 
「一等星かく輝けり」
落ちぶれた歌手の新堂は、金に汚いインチキプロモーターの所業にカっとなり、絞殺。自分の契約書の挟んであったファイルごと盗んでしまうが…。やはりファイルが決め手になってしまったか。乙姫警部がどこに目をつけるか、毎回ワクワクするね。結局、どうあがいてもとっくに歌手としては終わっていたのかもね。
 
「正義のための闘争」
ライフアドバイザーとして成功している史絵は、夫と不倫関係にある自分の秘書を公園に連れ込み刺殺する。容疑を夫に向ける工作は成功するのか。焦って最後にいらんことして捕まるパターン。乙姫がかけた罠が痛快だったな。
 
「世界の望む静謐」
美大予備校の講師は、男色の事務員に脅迫され、校内で殺害を決行。外部の泥棒の犯行に見せかけるために画策するが――。同僚に2人も特殊能力人間がいる、っていうのがちょっとな~って感じだけど、共感能力の低いこの犯人の人生は哀れでもある。「似ている」と自負する乙姫警部との大きな違いはなんだったんだろう。
 
以上。
どれもミステリとしてとてもレベルが高く、本格志向で大満足。若い人なら連想するのはコロンボよりも古畑任三郎だろうね。乙姫警部が意外と芸能人に詳しかったり、BLにも詳しかったり、女性向けライフ向上本?にも詳しかったり、この人一体なんなの(笑)。あの風貌で、お世辞や冗談も言えちゃうし(言われた人はただ不気味なだけ)。表現がいちいち面白いよね。「冥界で蠢く亡者の群が~」とか「冥界へ続く深い洞穴の底から亡霊の呻きが~」とか、乙姫警部の話し方や立ち居振る舞いに全部ホラーな感じの表現がつけられていて、それが全部違うので凄いなあと。
あと、タイトルはすべて(前作も)タロットカードから来ているそうな。