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水の眠り 灰の夢  (ねこ3.7匹)

桐野夏生著。文春文庫。

東京オリンピック前夜の熱気を孕んだ昭和38年9月、地下鉄爆破に遭遇した週刊誌記者・村野は連続爆弾魔・草加次郎事件を取材するうちに、女子高生殺しの容疑者に。高度成長の歪みを抱えたまま変貌する東京を舞台に、村野が炙り出したおぞましい真実とは。孤独なトップ屋の魂の遍歴を描いた傑作ミステリー。(裏表紙引用)
 
1995年に刊行された桐野さんの長篇ミステリー。桐野作品のシリーズキャラ、村野ミロの母親と義理の父村野との出会いを描いたもので、舞台は昭和38年。主人公の村野は週刊ダンロンの記者<トップ屋>で、当時世間を震撼させた連続爆弾魔・草加次郎の事件を追う。しかし道を外れた甥を探しに行ったパーティーで出会った少女・タキを家に泊めるハメに。やがて行方のわからなくなったタキが死体で発見され、村野はその容疑者になってしまう。
 
男社会を描いた硬質ミステリーであると同時に、激動の時代を生き生きと描いたリアル小説でもあった。アイビールックとか睡眠薬でラリる若者とかその時代をよく知らないけれど陰と陽の部分が鮮明で魅力的ですらある。ヤクザが横行していたり弱者への救済が足りておらずダメな者はどこまでも救われず、選ばれた者だけが奔放に法の及ばないところで好き勝手に生きている。今の時代の者から見れば救いがたいバカに見えるのだけれど、この無法地帯ぶりがどこか眩しくもある。日本っていい意味でも悪い意味でも今よりずっと元気だったよなあ。
 
この作品は大人に食いモノにされる若者たちに焦点を当てている感があって、だからこそ引き込まれて読めた。爆弾事件だけだとそれほど吸引力はなかったと思う。桐野さんはそういう若者を容赦なくありのまま映し出しながらも、彼らをそうさせた根本のほうを告発することを恐れない。どこか弱者への優しさが見え隠れするところにブレない問題意識があって、そこが桐野作品が人を引きつけて離さないところなんだなあと再確認できた。やはり昔の作品には力があるね。