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匿名作家は二人もいらない/Who is Maud Dixon?  (ねこ4匹)

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アレキサンドラ・アンドリューズ著。大谷瑠璃子訳。ハヤカワ文庫。

作家になることを夢見るフローレンス・ダロウはある日、匿名のベストセラー作家、モード・ディクソンのアシスタントとして雇われる。最初はまじめに仕事をしていた彼女だったが、次第にモードの原稿へ自分の文章を入れ込み、共同執筆者じみたことに快感を覚えるようになる。そしてとある事故がきっかけとなり、作家になりたいというフローレンスの野心が爆発し……予想できないどんでん返しの連続に驚愕必至のサスペンス。(裏表紙引用)
 
発売前にユニバーサル・ピクチャーズが映画化権を取得し、二十ヶ国以上で翻訳が決定、ニューヨーク・タイムズ紙の年間ベスト・ミステリに選ばれたという華々しいデビュー作。
 
ヒロインは作家になれず出版社で編集者としてくすぶり続けている平凡な女性・フローレンス。一作目の「ミシシッピ・フォックストロット」が大ベストセラーになった匿名作家・モード・ディクソンのアシスタントに抜擢されたフローレンスは、ある陰謀に巻き込まれていく…騙し騙されのジェットコースター・ノベルである。これと言って斬新な点はないが、ヒロインの愚かさと強欲さ、モード・ディクソン(ヘレン)の狡猾さ、果たして破滅するのはどちらという一点だけで最後まで一気読みさせる面白さがあった。ヘレン=悪役、フローレンス=被害者という構図は決まっているが、読者が応援するべきヒロインのフローレンスが人格的にかなり問題のある「応援できない」人物だということも記しておきたい。不倫の果てに奥さんに隠し取り画像を大量に送りつけたり、ヘレンの原稿に手を加えたり。トラブルに巻き込まれても、自分から地雷を踏み袋小路にはまってしまうところがフローレンスにはある。読んでいてイライラすること複数回。どうせならこっちが破滅すればいい、読者としては面白ければどちらが生き残っても構わない。なのでこのラストは賛否分かれるかも。スッキリと気持ちよく本を閉じるべきか、やられた、とほくそ笑むのが正解か。