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フーガはユーガ  (ねこ4.2匹)

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伊坂幸太郎著。実業之日本社文庫。

常盤優我は仙台市内のファミレスで一人の男に語り出す。 双子の弟・風我のこと、幸せでなかった子供時代のこと、 そして、彼ら兄弟だけの、 誕生日にだけ起きる不思議な現象、「アレ」のこと――。 ふたりは大切な人々と出会い、 特別な能力を武器に、 邪悪な存在に立ち向かおうとするが……。 文庫版あとがき収録。 本屋大賞ノミネート作品!(裏表紙引用)
 
伊坂さんが織り成す、ちょっと不思議な能力を持った双子の兄弟を描いた物語。
 
双子の風我と優我は、誕生日にだけ2時間置きにお互いの身体が瞬間移動するという能力を持っている。双子は両親に恵まれず、酷い虐待を繰り返す父親、家庭から逃げてしまった母親のもとで育った。ある日優我はテレビ局の人間に、君たちの能力について話して欲しいと呼び出されたが――。
 
とにかく腐った人間ばかりが出てくる。その代表格が双子の父親だが、風我の恋人・小玉を預かっている叔父もまた輪をかけてひどい。少女を浴槽に沈め苦しむところを、悪趣味な会員とともに眺めるというショーを開催しているのだから。家が裕福であることを利用して同級生にいじめを繰り返す子どもがいたり、少女をひき殺してのうのうと暮らしている犯罪者もいる。街では子どもが行方不明になり遺体で見つかる事件が起きるなど、とにかく不快のオンパレード。伊坂幸太郎の文体でなければとても読めたものではなかっただろう。
 
テレビ局員に淡々と話す優我と風我の半生。すべてのキーワードや言動、行動が全て最後に繋がる構成はやはり圧巻で、この技術に関して右に出る者はいないだろう。さらに優我の語る話には嘘があると明かされており、その嘘がまた物語に効いている。これはもう物語内容を省いても相当なテクニックで、圧倒されるほどだ。内容が酷いものでさえなければ、愛すべき作品の一つに数えられただろう。それなりに悪人への報復や人間関係の素晴らしさを描いてはいるが、結局トカゲの尻尾切りでしかないことを痛感させられるし、悲しさを残して終わるのも辛かった。いい作品なのだ。いい作品なのだが、痛快と言うには世の中は残酷すぎる。