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罪火  (ねこ3.8匹)

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大門剛明著。角川書店

伊勢神宮奉納全国花火大会の夜に殺人事件は起こった。被害者は中学2年生の町村花歩。犯人は元派遣社員・若宮忍。花歩の母親、町村理絵はかつて若宮の恩師であり、一人暮らしの彼を家族ぐるみで気遣っていた。なのになぜ、若宮は凶行に及んだのか―。やがて事件は意外な展開をみせ、若宮と理絵に予期せぬ結末が訪れる…。人は罪を本当に許すことができるだろうか。自ら犯した罪を心から悔い改めることはできるのか。横溝正史ミステリ大賞+テレビ東京賞W受賞で話題を呼んだ『雪冤』を凌ぐ、衝撃の問題作。(紹介文引用)
 
10年くらい前に読んだデビュー作、「雪冤」が面白かった作家さん。今更ながら2作目となるこの作品を読んでみた。最近社会派に飢えております。
 
なかなかに技巧をめぐらした社会派作品である。主人公の若宮が横暴で自分勝手で反社会的な性質を持っていることが物語の肝要。読んでいて若宮に腹が立つばかりだが、それだけの物語ではない、若宮には何か秘密がありそう、という不穏さが常に付きまとう。恩師である理絵の娘を殺しつつ善人のふりをしてのうのうと恋人を作り好きな車を購入するなど、更生している人間のやることではないと思う。なのでラストで今まで見えていたことが全てひっくり返される展開にはやられた。理絵校長も、日記だけでよく気づけたものだと思う。執念のなせる技か。結局どんな早熟で賢くとも13歳の子どもが大人の世界に首を突っ込むのは早いと思う。
 
ところで、かおりのような、人を何人も殺した男と付き合う、結婚しようとする「教員の女性」。。どうも理解できない。私がいなくちゃダメ、って思っちゃうのか、ワルに惹かれる女性ってどうしても一部で存在するからしょうがないのか。普通、職場で上司を殴って殺そうとした男を塾講師に勧誘したりしないよねえ。。若宮のあれは正義感でもなんでもないと思う。どうもそこだけ違和感があったが、こういう女性がいるから社会は助かっている面もあるのかな。
 
ともあれ、ページ数は少ないながらもよくまとまっていて読み応えある力作だった。他のも読んで行こうかな。