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恩讐の鎮魂曲  (ねこ4匹)

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中山七里著。講談社文庫。

少年時代の凶悪犯罪が暴露され悪評が拡散する弁護士・御子柴。勝率九割の敏腕も依頼者が激減、事務所移転を余儀なくされた。そんなとき少年院時代の教官が殺人容疑で逮捕され、御子柴は恩師の弁護を力ずくでもぎ取る。御子柴の弁護法廷は驚愕の展開に!「贖罪」の意味を改めて問う傑作リーガル・サスペンス。(裏表紙引用)
 
御子柴シリーズ第3弾。
今回は、御子柴の医療少年院時代の恩師・稲見を弁護する。あの義理人情に厚く正義感の強い稲見が、介護士と口論になって花瓶で殴り殺すなんて考えられない…。恩師を助けるため御子柴は強引に稲見の担当となり、稲見が入所していた老人ホームを調査する。そこで明らかになったホームの実態とは…。
 
被害者である栃野がどういう人物であったかということと、ブルーオーシャン号海難事故での悪行を読んでいていたたまれない気持ちになった。こんな人間の形をした獣のために立派な人間が罪を犯さなければいけなかったのかという気持ちと同時に、稲見の自分を罰して欲しいという気持ちも間違ってはいないように感じた。無罪を勝ち取りたい御子柴の思いは痛いほど伝わってくるが…。真実を隠して罰を受けることもまた稲見の主義に反するのではないかとも思うので、結果としてはこれがベストの判決だったのでは、と考えたいが…。御子柴自身が贖罪についての覚悟を強めていっているのがシリーズを読み進めるごとに分かるので、良い経験だったのではないかな。個人的にはそれでもまだ御子柴が悪徳弁護士であることの印象は変わらない。そんなに単純な犯罪ではなかったのだから。正義との葛藤がうすら見える、それがこのシリーズの魅力でもあるのでここのところのタブーは今後も突き詰めていって欲しい。