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殺人記念日/My Lovely Wife  (ねこ4匹)

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サマンサ・ダウニング著。唐木田みゆき訳。ハヤカワ文庫。

ふとしたことで人を殺し、その隠蔽という共同作業を経て夫婦円満となった「わたし」と妻。二人はもはや殺人を楽しむようになり、次なる獲物を求めていた。そんなとき、隠していたはずの被害者の死体を警察に発見されてしまう。そこにはある秘密があった――彼らは十八年前の連続殺人事件の犯人に罪をなすりつけようと画策するが……。数多くのミステリ最優秀新人賞にノミネートされ、国際的ベストセラーとなったサスペンス。(裏表紙引用)
 
初読み作家さん。ちょっと面白そうな本が出ていたので挑戦。600ページ弱の長編なので手に取って「お、おお…」と思ったが、読み始めるとスラスラと読める内容。へたな国内ものよりも数倍読みやすいかもしれない。
 
主人公はテニスコーチをしている「わたし」。愛する妻・ミリセントとの間には2人の子どもがいる。経済的に困窮しているが、それなりに幸せで平凡な日常を送ってきた。しかし、ミリセントの姉・ホリーが精神病院を退院し、一家の生活を脅かすようになったことから、わたしはホリーを殺害してしまう。さらにわたしに疑いをかけ脅迫しに来た女性も手にかけることになり、それ以来わたしとミリセントは女性を拉致し殺害するという共通の趣味に耽溺することとなる。その罪を18年前逃亡した連続殺人鬼になすりつけようと画策するが、何やらミリセントの動きが不可解で…。
 
あらすじだけを並べるだけでとんでもない夫婦、とんでもないストーリーだが、どこかのほほんとした雰囲気があり、事態が逼迫していても緊張感がない。わたしが殺人を犯すシーン自体ホリーのところだけだし、実行犯役のミリセントでさえ被害者を拉致監禁し殺害するシーンは一切出てこない。殺人鬼に怯え精神的に不安定になる娘、父親を脅迫し始める息子。テニススクールの生徒が自殺するに及んでもなお、ごく普通の一般家庭の親が人並みに子育てに悩み奮闘している姿のほうがピックアップされていて違和感が凄い。そこがこの小説の面白味で、そのせいで中盤が少々ダレるものの、なんともいえない奇妙な雰囲気でお話が進む。
 
後半からはミステリーとしての緊迫感や意外な展開が形を見せるので、それなりに整合性のあるちょっと変わった物語としてまとまっている感じ。海外ものが苦手な人でも楽しめそう。軽いけど、面白かった。