すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

動機、そして沈黙  (ねこ3.5匹)

f:id:yukiaya1031jp:20210323200839j:plain

西澤保彦著。中公文庫。

時効まで二時間となった猟奇犯罪「平成の切り裂きジャック」事件を、ベテラン刑事が回想する。妻と戯れに推論を重ねるうち、恐ろしい仮説が立ち上がってきて…。表題作ほか、妄執、エロス、フェティシズムに爛れた人間の内面を、精緻なロジックでさらけだす全六作品。(裏表紙引用)
 
西澤さんの、動機に焦点をあてたミステリ短編集。「そして沈黙」が表す通り、事件の真相は曖昧なまま、というお話が多いかな。モヤっとはするものの、どれもなかなか刺激的で面白い。
 
「ぼくが彼女にしたこと」
近所に住んでいた、憧れのお姉さんが自分の父親と不倫していることを知った少年は、その不倫現場を覗くことに意義を見出していた。しかしその現場をクロイシアキラと名乗る隣人に目撃され、なぜか交換殺人の約束を交わすことに。子どもを巻き込むことがこのお話を倒錯的なものにしている気がする。現実味はないが、最後の少年の気持ちの暴露といいスーっと胸が冷たくなるようなお話。
 
「迷い込んだ死神」
車のガス欠により、ある洋館に助けを求めた男は、家人の厚意によって家の中へ招き入れられた。そこには主人と妻、2人の美しい娘がいた。しかしこの家族、なにかがおかしい。この家族は被害者だけど、心に闇を抱えた人間と知らずに接したのが何より不幸だったのかと。怖いね。
 
「未開封
静香という名前の女性ばかりを狙った連続殺人事件。未開封の〇Vだからこそ興奮する、とかいう趣味?フェチ?もしんどいけど、どっちがストーリーの中心だったかを考えたらレズビアンなんだろうなあ。。ザ・西澤エロワールド。
 
「死に損」
13年の時を経て、再び出会った人々がそれぞれの運命を決める。恨みの深さなんていう単純なものじゃなくて、もっと人間の心理は複雑なのかも。ちょっとしたことが引き金になることもある。登場人物全員が性的に倒錯していてこれまたしんどい。
 
「九のつく歳」
長い交際の果て、別れることが決まった同性カップル。その引越し準備の日、警察がある殺人事件のことで訪問してきたが…。全然関係ない事件かと思いきや、主人公と繋がっていく展開が見事だなと。こういうのうまいよね、西澤さん。
 
「動機、そして沈黙」
来年定年の刑事が、妻と語り合った切り裂きジャック未解決事件。妻の推理遊びは次第に熱を帯びていくが…。強引すぎるし本当だったらとてもまともとは思えない犯人。。ラストの刑事の妄想は果たして真実なのか。
 
以上。
相変わらずのエロ、倒錯、アブノーマルネタで疲れるが、最後まで読まずにいられない面白さも相変わらず。リアリティはないかなあ。。登場人物の思考も行動も独特だけど、これこそ西澤作品にしかない色という感じ。