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私の頭が正常であったなら  (ねこ4匹)

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山白朝子著。角川文庫。

最近部屋で、おかしなものを見るようになった夫婦。妻は彼らの視界に入り込むそれを「幽霊ではないか」と考え、考察し始める。なぜ自分たちなのか、幽霊はどこにとりついているのか、理系の妻とともに謎を追い始めた主人公は、思わぬ真相に辿りつく。その真相は、おそろしく哀しい反面、子どもを失って日が浅い彼らにとって救いをもたらすものだった――「世界で一番、みじかい小説」。その他、表題作の「私の頭が正常であったなら」や、「トランシーバー」「首なし鶏、夜をゆく」「酩酊SF」など全8篇。それぞれ何かを失った主人公たちが、この世ならざるものとの出会いや交流を通じて、日常から少しずつずれていく……。そのままこちらに帰ってこられなくなる者や、新たな日常に幸せを感じる者、哀しみを受け止め乗り越えていく者など、彼らの視点を通じて様々な悲哀が描かれる、おそろしくも美しい”喪失”の物語。【解説:宮部みゆき】(紹介文引用)
 
乙一さんの別名義、山白朝子短編集。いずれも「喪失」をテーマにしているらしく、それぞれに哀しみややりきれなさが伺える作品ばかり。
 
「世界で一番、みじかい小説」
ある夫婦が自宅で目撃するようになった見知らぬ男。彼は殺されたのか?
理系の奥さんが、正体を突き止めようと資料を作るのが面白い。ホラーのエッセンスがありつつ、実はミステリー。なぜ彼らに幽霊が取りついたのか、その過程が不気味すぎる。。
 
「首なし鶏、夜をゆく」
転校生のマキヲは、いじめられっ子の風子と友だちになった。そのきっかけは、風子が飼っている首がないのに生きている鶏なのだが…。
なかなかにシュール。子どもが虐待されるお話は読んでいて辛い。哀しいお話でもあるのでなおさら。夜をさまようマキヲ、情緒的で残酷な結末。これには震えた。
傑作だと思う。
 
「酩酊SF」
作家の大学時代の後輩Nが、SF小説のアイデアを持ち込んだ。お酒を飲み酩酊すると時間が混濁するという女の話だ。そしてそれはやがてNの恋人の実体験だということが分かり…。
未来わかる系って、ギャンブルに手を出すと破滅するっていうのが常道だけどね。自分の死を避けるために様々な策略を巡らせるが、彼が最後にとった手段がなんとも非人道的。混濁する能力の真相にも驚いた。これも傑作かと。
 
「布団の中の宇宙」
作家仲間のTがスランプから脱出できたのは、中古で買った布団セットのおかげらしい。
足元だけ異世界ワープってこれまた随分地味な。これと言ったひねりのある結末ではないが、世界観は面白い。
 
「子どもを沈める」
かつて同級生をいじめで死なせてしまった4人のうち3人が、自分の娘を殺害。残されたカヲルは、自分もそうなるのかと怯える…。
まあこれだけ酷い復讐をされるほど、酷いことをしたということ。更生できるならばしたほうがいい。
 
「トランシーバー」
震災で妻と息子を失った男は、かつて息子と一緒に遊んでいたトランシーバーから息子の声が聞こえ…。
立ち直ってほしいし、思い出も大切にしてほしい。それはわかる。わかるが、私ならこういう人と結婚するのは重すぎて無理だ。新しい家族が出来たなら、もうトランシーバーは鳴らないほうがいいんじゃないかな。
 
「私の頭が正常であったなら」
夫からのDVにより離婚した女性は、娘を連れて実家へ帰った。しかし元夫がとんでもない事件を起こし…。
養育費を手渡し、なんてことなんで了承するかな。こういうタイプってどうもなるべくして不幸になっている気がする。。悪いのは夫だが。女性にだけ聞こえる少女のSOS。幻聴ならばそのほうがいい、だって幻聴じゃなかったら…。意外にもストレートな展開でホっとした。
 
「おやすみなさい子どもたち」
キッズスクールの集まり中、乗っていた船が沈没し死んでしまったアナ。目覚めるとそこは天界で、アナの走馬灯フィルムが見当たらないと天使が言う。
設定が面白いね。タイトル、走馬灯フィルムでも良かったかもしれない。子どもがかわいそうなことになるお話が多かったので、このお話で救われた。ラストに持ってきたのにも意味がありそう。
 
以上。
「首なし鶏~」、「酩酊SF」、「私の頭が正常であったなら」が特に素晴らしい。これと言った駄作はナシかも。ちょっと冷たさもあり、残酷でもあり、それでいて美しい、そんな世界観がとてもいいと思う。
 
ところで、デビュー作から本作の間に出た2作品を読んでいないようだ。最近、続編!と思ったらその前に1作あった、みたいなことが本当に多い。。。トシかしら。。