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贖罪の奏鳴曲  (ねこ4.4匹)

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中山七里著。講談社

弁護士・御子柴礼司は、ある晩、記者の死体を遺棄した。死体を調べた警察は、御子柴に辿りつき事情を聴く。だが、彼には死亡推定時刻は法廷にいたという「鉄壁のアリバイ」があった―。「このミス」大賞受賞作家による新たな傑作誕生。(裏表紙引用)
 
ねこりんさんオススメの御子柴シリーズ。
 
主人公が弁護士だということ以外の前知識を入れずに読み始めたため、プロローグで死体を入間川に遺棄する弁護士・御子柴にそれはそれはもう度肝を抜かれた。しかし本当に驚くのはその後。依頼人に3億円の弁護料なんてのは可愛いほうで、御子柴自身についての驚愕の過去にドン引き。。こ、これはちょっと今まで読んできた作品とはかなり一線を画すレベル。どう考えても神戸のあの事件をモデルにしているので、よく批判されなかったな、とビクビクしながら読みすすめたのだが…。そう単純なダークヒーローものではなかった。
 
安楽死事件から一転しての保険金殺人を依頼される御子柴。木材工場で起きたトラック事故、脳性麻痺の息子、どれも一筋縄ではいかない様子なのに、御子柴の素性を疑った刑事2人が御子柴をも疑い始める。さらに過去に請け負った事件の逆恨みから被害者の母親に付きまとわれるシーンも加わり、まさにカオス。中盤では少年院時代の回想が挿入され、これもまた御子柴の人格に色がついた。仲間の脱走、自殺、教官のいじめ、そして御子柴に影響を与えたピアノ演奏や担当教官の言葉。御子柴がどうして各界から恐れられる弁護士になったのか、彼は更生したのか、贖罪とは言葉だけのことではないのではないか。最初はお金のことばかりでいけすかない弁護士だな、なんか人殺してるし、としか思わなかった御子柴の本当の姿に身が引き締まる思いがした。
 
そして肝心の保険金殺人は、裁判シーンが見せ場となる。普通では考えられない証拠を法廷に持ち込み弁舌をふるった御子柴…カッコイイ…。実はこのあと二転三転するのだが、一つは想像の範囲だったものの、他に明かされた真実があまりにショッキングでやりきれなさが残った。御子柴にふりかかった災難も合わせて、とても爽快とは言えないエンディング。最後の刑事の言葉の重みが、御子柴の希望なのではないだろうか。
 
過去に中山さんの作品を読んでかなり印象が悪かったのだが、たまたまハズレを引いたらしい。この御子柴シリーズはものすごく重厚で読み応えのある作品だった。中山作品の特徴である猟奇性が法廷ものとうまく調和していると思う。ぜひシリーズを読み続けたい。