すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

ザリガニの鳴くところ/Where the Crawdads Sing  (ねこ4匹)

f:id:yukiaya1031jp:20210227221730j:plain

ディーリア・オーエンズ著。友廣純訳。早川書房

ノース・カロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。6歳で家族に見捨てられたときから、カイアは湿地の小屋でたったひとり生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女のもとを去ってゆく。以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく…みずみずしい自然に抱かれて生きる少女の成長と不審死事件が絡み合い、思いもよらぬ結末へと物語が動き出す。全米500万部突破、感動と驚愕のベストセラー。(紹介文引用)
 
2021このミス2位、本ミス9位作品。
 
500ページ強のアメリカ文学
 
ヒロインはノース・カロライナ州の「湿地の少女」と呼ばれるカイア。幼少の頃母親が失踪し、数多くいた兄弟も次々と家を脱出していった。やがて父親にも捨てられたカイアは、1人で貝を堀り、それで生計を立てる。少女は育ち、恋をする。何度も裏切られ、それでもカイアはまた人とのつながりを求めていく。。
 
暴君の父親と共に一番幼い少女を置き去りにしていく家族たちや、差別や偏見に凝り固まった村人、立ち去っていく恋人たち。内容が残酷かつ哀しいもので、延々とただやり切れなくなる。植物や生物の描写の美しさが対照的で、躍動的なその命の脈動さえも哀しみを引き立てるものでしかない。最初の恋人、テイトはともかく、二番目の恋人チェイス(被害者)は殺されても仕方がないようなクズで、カイアが強くたくましい女性でなかったらもっと悲惨なことになっていたかもしれない。小さい男ほど飾り立てて大きな声を出す、っていうのは本当に人間と同じだね。燃料店のジャンピンやメイベル、帰ってきた兄ジョディなど、心の優しい人々もたくさんいて心洗われた。カイアが純粋で、可哀想だったからだろうと思う。長じてたいへんな才能を発揮したことで、対等に尊敬される女性になったんだとしたら嬉しい。生物の本能そのままの弱い人間もいれば強い人間もいて、ままならない生命の営みを一人の女性の人生を通して見せられた、そんな気分になった。
 
ただ、ミステリーを期待して読むとかなり肩すかしかも。ラストの驚愕の真実が想像の範疇だったし、500ページ強のほとんどが恋愛小説、詩も多用。でも読みやすい訳文なのですぐ引き込まれるのではないかな。私のような読者でさえもカイアに下される判決を読むまでは死ねないと思った。