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刑事の怒り  (ねこ3.7匹)

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薬丸岳著。講談社文庫。

スーツケースに入った高齢女性の遺体。隠していたのは娘だった。母の死を届け出なかった本当の理由とは(「黄昏」)。公園のトイレで起きた殺人。容疑者はレイプから身を守ったというが(「生贄」)。犯罪者自身が抱える壊された心、それでも許されない罪の重み。現在をまっすぐ見つめる刑事・夏目の傑作ミステリー。(裏表紙引用)
 
夏目刑事シリーズ第4弾。4編収録の短編集。
 
「黄昏」
母親の遺体をスーツケースに詰め自宅に隠していた女性が自首した。彼女はなぜ母親の死を隠し続けていたのか――。うーん、確かに最初に間違えてしまったかもしれないが、後で知る母の心は悲しく感じる。この女性も、どうかしちゃってたんだろうな。
 
「生贄」
公園で自分をレイプした男を刺殺したバーテンダーの女性。果たして事件は本当に彼女の言うとおりに起きたのだろうか――。夏目の、人の心理から「おかしい」と判断する洞察力はすごい。この犯人はバカだと思うが、もしこれが性犯罪者張本人に制裁したいという気持ちだったならば分からんでもない。
 
「異邦人」
ベトナム人留学生についてテレビなどで多少の情報は持っていたつもりだが、実際に夢を見て日本に来たはずの彼らの絶望は計り知れないものがある。ウチの町に何軒もいるベトナム人家族は大きいマイホームを建てて男性がいつでも日中家にいたりしょっちゅう友だちを招いたりとどう見ても金持ちだが(ウチのお向かいさんもそう)。。留学生の現実はこうなんだろう。日本での差別や失望がこの犯罪に影響を与えなかったとは思えない。
 
「刑事の怒り」
事故で5年前から意識不明状態だった恋人が、自分が見舞いに行った一時間後に突然亡くなった。同じ病院に通う同じ状態の少年が似たような状況で亡くなっていることに目をつけた夏目は…。「同じ病院の患者」ってだけで、自ずと容疑者の想像はついてしまう。この犯人のことは正直分からないな。母親のセリフじゃないけど、今の安定した生活を喪ってまでやることとは思えない。いや、どんな状況でもダメだけど。尊厳死と言っていいのか、この問題に関しては、ちょっと自分の考えとまるで違ったので理解できるまで保留。(絵美ちゃんについては別、改善するといいと思う)
 
以上。
面白いんだけど、夏目も好きなんだけど、ちょっと完璧すぎるかな。。正直綺麗事言ってんな、って思う話もあった(登場人物に「あなたの言葉は届かない」って言われてたし)。奥さんも人格出来すぎだし。。これぐらいのいい話、いい人だったら他の作家でもいいわけだし。もっと汚いところもえぐって薬丸さんらしく被害者に寄り添って欲しかった気がする。それができる作家だから。短編集だからこんなもんでいいのかな。