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特捜部Q ―自撮りする女たち― /Selfies  (ねこ4.5匹)

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ユッシ・エーズラ・オールスン著。吉田奈保子訳。ハヤカワ文庫。 

これまで数々の未解決事件の謎を暴いてきた特捜部Q。だがアシスタントのローセの精神的不調に加え、部は予算不足により解散が囁かれる事態に。そのさなか、部の責任者であるカールに、殺人捜査課の元課長から電話が入る。最近起きた老女撲殺事件が未解決の女性教師殺害に酷似しているとの情報だった。元上司の懇願にカールは重い腰を上げ、管轄外である、現在進行中の事件の捜査に勝手に乗り出すが…。シリーズ第7弾。(上巻裏表紙引用)
 
特捜部Qシリーズ第7弾。うおー面白かったー!
 
今作はすごい。5件以上もの事件が全て複雑に絡み合って進行するのだから。まずは資産家の老女撲殺事件と、その前日に発生した教員女性撲殺事件に類似点が多いのはなぜか?。そしてギャングチームと敵対している失業者グループの間で起きたクラブ強盗事件とギャング女性銃撃事件。さらに失業者グループたちをターゲットにした、ソーシャルワーカーによる連続ひき逃げ事件との絡み。さらに老女の夫が起こした過去の大罪とその正体。
 
そしてそして、このシリーズの愛読者にとっては1番気がかりで重大な謎、ローセの衝撃的な生い立ちとローセ自身の深刻な病状。ローセはさらに人格分裂が激しくなってしまい、4人目の妹まで登場してしまう。笑ってられない、ローセが長年苦しみ続けてきた原因である父親の所業は本当に許しがたく信じられないものだった。それを知った、ローセを愛するゴードンやアサド、カールの苦しみ…。絶対にローセは死んじゃいけない。苦しんでいる状況なのにさらに酷い事件に巻き込まれるローセが可哀想で…。
 
この物語には「生まれながらのサイコパス」や「生来真面目に生きる術を持てない」人間も登場するが、注目すべきは「ごく平凡な人間が、環境によってそうなってしまった」パターンだ。ひき逃げ、強盗事件については犯人が分かっているので書くが、毎日詐欺まがいの申請をしてくる横暴者の相手をするソーシャルワーカー・アネリがその筆頭だろう。ガンになってしまったことで自暴自棄になる気持ちが、八つ当たりという形で暴走した結果だ。やはり福祉大国デンマークと言えど実態としては色々な問題があるものだ。もちろん卑劣な犯罪者であることは間違いないが。
 
全部が繋がるあたり都合がいいと思わなくもないが、全てがなるべくしてなったように、自然に暗闇へ堕ちていく人間たちの姿は本当に現実的で、読む手が止まらなかった。貧困、殺人、強盗、自殺願望、嘘を隠すための嘘が積み重なり、一度犯罪に手を染めた人間には決して訪れない光があるのだということをまざまざと見せ付けられる作品だった。そんな中、罪もなく犠牲となったローセの物語だけが異彩を放つ。ローセの父親の死の真相を暴くことが出来たのは特捜部Qが有能だからだけではない。カールやアサド、そして新たにキャラクターとしての魅力を発揮し始めたゴードンの、身体は別々でも心はひとつだという信念とローセへの愛情こそがなし得たものだろう。ローセが次作で少しでも立ち直って、登場しますように。