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猿の見る夢  (ねこ3.9匹)

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桐野夏生著。講談社文庫。

十年来の愛人しか今の薄井の楽しみはない。それなのに逢い引きに急ぐところ、会長が社長の怪しいセクハラ問題を耳打ちする。家には謎の占い師が居座り、女のマンションで機嫌をとっていれば、妹が電話で母の死を知らせてくる。「なぜみんな俺を辛い立場に立たせる?」欲深い59歳の男を徹底的に描く過激な定年小説!(裏表紙引用)
 
桐野作品を読むのは久しぶり。偶然新刊紹介であらすじを読んで面白そうだと思ったので。
 
いやいや、相変わらず登場人物に容赦ないな。桐野さん、初老のビジネスマンに何か恨みでもあるの?(笑)と思うぐらい徹底的にやられてしまう主人公・薄井。もちろんこの手の男はめちゃくちゃ嫌いだし軽蔑するが、階段を転げ落ちるように何もかもが駄目になってしまう展開に思わず哀れんでしまった。
 
59歳の薄井は銀行からレディースファッションの製造小売業会社へ出向し、現在の地位は財務担当取締役。妻と2人の息子、そして10年越しの愛人・美優樹がいる。それなりに上手くやってきたが、社長のセクハラ問題にひと肌脱ぐことになるわ妻はおかしな占い師の老婆を自宅に住まわせるわ母が亡くなり妹には絶縁されるわ二世帯住宅の夢は潰えるわ愛人の美優樹はなんだかイライラしているわ…。占い師(詐欺師?)の長峰の存在感がこの物語のキーとなっているが、ホントに疫病神だったんじゃないのか。
 
とにかく薄井のアッチがダメならコッチ、コッチがダメならアッチ、という不誠実さにげんなり。ファストファッションを着こなす肉感的な秘書に突然惹かれ、スタイル抜群でお洒落と今まで評価していた美優樹を貧相な身体、ブランド志向と蔑み始め、その秘書が実は気が強いと分かったらやっぱり美優樹が愛しいと言い始め、その美優樹と揉め事になったらやれ古女房が1番だとほざき出し、その妻に見放されそうになったらやっぱり美優樹、いや秘書だとコロコロコロコロ…。これが約600ぺージ、延々続くんだからねえ。。かと言って出てくる女性たちも決して魅力的だとは言えない(長所はあるにしても)。全員ヒステリー気質というか。いや、怒らせてるのは薄井なんだけど。遺産問題で遺書を盗んだり、愛人が母の告別式に乗り込んだり、万事休すか?と思わせてギリギリ踏みとどまる(ように見えてるだけだが)あたりじれったいというか、いやこのまま読み続けたいというか。ここまで最悪な男そうそういないと思う。多分、仕事はまあまあ出来て容姿も悪くないんだろうからモテないこともないのは分かるけど。
 
イライラしながらも読む手が止まらなくて最高に面白かったんだけど、終わり方が性急だったのが残念だった。もっとコテンパンにやられて欲しかったなあ。この後どうなるかは想像がつくけれど、描かないあたり桐野さんの優しさなんだろうか。まさかねえ。
 
で、この「猿」っていうのはてっきり薄井のことだと思っていたが(まあそれも意味合いとして含んでいるんだろうが)、日光東照宮の三猿のことみたいね。こわいこわい。