すべてが猫になる

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ラストナイト  (ねこ3.8匹)

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薬丸岳著。角川文庫。

居酒屋「菊屋」に刑務所を出所したばかりの片桐が現れた。顔面に豹柄の刺青を入れた特異な容貌で犯罪を繰り返す友人に、店主の菊池は忸怩たる思いを持っていた。片桐が初めて逮捕されたのは菊屋で傷害事件を起こしたときだったのだ。それは暴力団員から店と菊池の妻を守るための行動だったが、それ以降、片桐は人が変わったように次々と犯罪に手を染めるようになる。男はなぜ、罪を重ねるのか?圧倒的な結末、入魂のミステリ。(裏表紙引用)
 
薬丸さん盛り返したなあ。一時期イマイチな作品が続いてもう終わりかなって思っちゃったのだけど、きっちりこの作品で取り返してくれた。
 
主人公は料亭を営むやもめの菊池。息子が結婚し子どもが生まれ、店を息子夫婦に譲ろうかと考えていたところへ、かつての友人片桐が訪ねてきた。片桐は数年前菊池の店で障害事件を起こし、服役して出所したところだった。さらに片桐の顔面にはおぞましい刺青が入れられ、次々とこすい犯罪を繰り返す。かつて結婚し娘が生まれ、優しかったはずの片桐の身に何が起きたのか?
 
最初は片桐のあまりの風貌や暴力的な行動、刑務所に出たり入ったりしているという性質に全くいい印象を持てなかった。昔いい奴だったからと言って、ここまで堕ちてしまった男を受け入れる菊池にも反感を持ったし。しかしまさかこんな悲しい過去を背負っていたとは…。こんなやり方しか出来なかったのだろうか、と胸苦しい思いでいっぱいになる。顔だって刺青以外の方法なかったのかなあ。娘のひかりや弁護士の中村にも背負うものがあって、このままでは誰も幸せな未来に希望が持てないのでは、と。やりきれない結末だが、これで少しは片桐も報われるのだろうと思えてならない。
 
約250ページの短い小説だが、内容はぎっしり詰まっていて読み応えあり。