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不条理な殺人/Murder is Absurd  (ねこ4.3匹)

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パット・マガー著。戸田早紀訳。創元推理文庫

人気俳優マークは義理の息子ケニーが書いた不条理劇の題名を知り動揺する。それは17年前、ケニーの実父が死んだ“事故”を暗示しているようだった。当時4歳だった息子が何かを知っている?マークはケニーの母で女優の妻サヴァンナの反対を押し切って劇への出演を決め、息子とともに舞台を作ることで真意を探ろうとする。過去の事件と舞台の上演が、彼らにもたらす結末とは?(裏表紙引用)
 
パット・マガーは大好きな作家で、未読もあと1冊残すのみとなった。本書は最近初邦訳された1960年代の作品だそう。なんでこんな面白い本が今やっと邦訳なんだと思ったが、そのおかげで今1番いい状態で読めたからいいか。
 
主人公は有名スター俳優のマーク。妻サヴァンナも同じくスター女優で、何十年も共演し続けている。しかしサヴァンナにとってマークは二番目の夫で、前夫の間にはケニーという息子がいる。名脚本家だった前夫は事故によって車椅子生活となり、人生に絶望。やがて前夫は1人崖から落ちて死亡。前夫と親友でもあったマークはサヴァンナと再婚するが、長じて脚本家となった義理の息子ケニーが描いた新作の内容に不安を隠せない。幼いケニーはあの日何かを見たのか?
 
と、最初から真相がほぼ分かっているような内容だが、このストーリーを引っ張っているのはミステリーではなく家族間ドラマ。言ってしまえば、読者は延々と芝居の稽古(うんちく)と家族ゲンカを読まされ続けてるっていう…。特に妻のサヴァンナのワガママさ強引さは殺意をおぼえるレベルで、このあたり好き嫌い分かれちゃうかな。エンタメ専門の女優が、もう役が決まっていて初日まであと1週間しかない不条理劇に「あの人の代わりに私が出たい、いや出る」ってどんだけ。。しかもそのためなら手段は選ばない。いやもう、マークは一体この人の見た目以外のどこがそんなに好きなのか。。しかも舞台に出れないと分かってからの行動は狂気。それをやったことがじゃなくて、息子がああなっても動かなかったことが狂気。ラストの会話は演劇ものならではという感じで、うまいこと言って締めたなあと感心。
 
パット・マガー好きなら間違いなく気に入る逸品だと思う。