すべてが猫になる

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栞と嘘の季節  (ねこ3.9匹)

米澤穂信著。集英社

ベストセラー『本と鍵の季節』(図書委員シリーズ)待望の続編! 直木賞受賞第一作 猛毒の栞をめぐる、幾重もの噓。 高校で図書委員を務める堀川次郎と松倉詩門。 ある放課後、図書室の返却本の中に押し花の栞が挟まっているのに気づく。 小さくかわいらしいその花は――猛毒のトリカブトだった。 持ち主を捜す中で、ふたりは校舎裏でトリカブトが栽培されているのを発見する。 そして、ついに男性教師が中毒で救急搬送されてしまった。 誰が教師を殺そうとしたのか。次は誰が狙われるのか……。 「その栞は自分のものだ」と噓をついて近づいてきた同学年の女子・瀬野とともに、ふたりは真相を追う。 直木賞受賞第一作は、著者の原点とも言える青春ミステリ長編! (紹介文引用)
 
高校二年生の図書委員、堀川と松倉コンビが帰ってきた。ということで第2弾、わーい。今回は、長篇。
 
返却された本に挟まっていた押し花の栞。手作りらしきその栞に使われていた花が猛毒のトリカブトだと分かった堀川たちは、図書室に栞の持ち主が名乗り出る旨を記し掲示した。やがて持ち主だという瀬野という女子生徒が現れる。栞はかつて自分がブックカフェで配布するために作ったものだという。そして嫌われ者の生活指導教師・横瀬がなんらかの中毒で倒れ――。
 
毒自体はたいへんなものだが、随分と小さい謎にページ数をかけるんだな、と。実際は大きな問題が渦を巻いていたわけだが。タイトルにもあるように、主要人物らも含めて小さな嘘を積み重ねていくので、その時々のネタバラシが面白い。特に松倉の謎にはビックリだし、堀川の嘘は図書委員の矜持を感じさせて好感がもてた。
 
内容は暗めながらも高校生の持つ悩みや問題ばかりで、ホノブ作品っぽい。10代の心情を描いた物語に違和感なくついていける作家さんってあまりいないのだけど、ホノブの文章力語彙力はそれを可能にするなあと。若いね、青いね、じゃなくて子どもの無力さや繊細さが身にしみる作品だったなあ。ミステリー的には丁寧でまあまあかな。

殺しへのライン/A Line to Kill  (ねこ4.3匹)

アンソニーホロヴィッツ著。山田蘭訳。創元推理文庫

『メインテーマは殺人』の刊行まであと3ヵ月。プロモーションとして、探偵ダニエル・ホーソーンとわたし、作家のアンソニーホロヴィッツは、初めて開催される文芸フェスに参加するため、チャンネル諸島オルダニー島を訪れた。どことなく不穏な雰囲気が漂っていたところ、文芸フェスの関係者のひとりが死体で発見される。椅子に手足をテープで固定されていたが、なぜか右手だけは自由なままで……。年末ミステリランキング完全制覇の『メインテーマは殺人』『その裁きは死』に続く、ホーソーンホロヴィッツシリーズ最新刊!(裏表紙引用)
 
ホーソーン&ホロヴィッツシリーズ第3弾。
(参考までに。「カササギ殺人事件」のシリーズではありません)
 
「メインテーマは殺人」の刊行に先立って、オルダニー島で開催される文芸フェスの参加を決めたホロヴィッツホーソーン(むりくり)。多種多様な参加者が集う中、オルダニー島ではある送電線計画について反対派と賛成派で派閥が起きていた。不穏な雰囲気の中、文芸フェス主催者の夫が椅子に縛られ右手だけをそのままにした状態で殺害された。その後、妻も他殺死体で発見され…。
 
殺人事件の謎解きものとしても読み応えがあったのは言うまでもないが、登場人物を取り巻くいざこざのドラマやホーソーンと確執のあるアボットの存在が物語の肝だった。どの人物をとってみても怪しくない者はおらず、それぞれの職業に思い思いのウラがあった。正義マンとしては一癖も二癖もあるホーソーンの解決方法はやはりひねくれていて、読者としてもホロヴィッツから見ても「これで正しいのか?」と思わせるあたりがにくい。ホーソーンが犯罪者に手をかけている可能性を残し、ワトスン役のホロヴィッツの中にくすぶる不信感やいらだちが目立ち始めた。仲良しこよしの探偵コンビもいいが、こういう歪な関係性もまた本格探偵ものだけが持つ強みだろう。
 
大きな期待をかけなかったせいか、シリーズキャラとしての愛着が増したか、シリーズ中1番良かった。
さてホーソーンのリースの秘密とは。。息子との関係は。。早く続きが読みたい。

シーソーモンスター  (ねこ3.7匹)

伊坂幸太郎著。中公文庫。

バブルに沸く昭和後期。一見、平凡な家庭の北山家では、元情報員の妻宮子が姑セツと熾烈な争いを繰り広げていた。(「シーソーモンスター」) アナログに回帰した近未来。配達人の水戸は、一通の手紙をきっかけに、ある事件に巻き込まれ、因縁の相手檜山に追われる。(「スピンモンスター」) 時空を超えて繋がる二つの物語。「運命」は、変えることができるのか――。創作秘話を明かすあとがき収録。(裏表紙引用)
 
8人の作家が、「共通ルールを決めて、原始から未来までの歴史物語をいっせいに書く」という螺旋プロジェクトの1冊。たまたま以前薬丸岳さんの「蒼色の大地」を読んだことがあるので、なんとなく主旨は理解。前述した作品がそれほど面白いと思えなかったのと海族と山族がお互いに対立しあう内容とかあまり興味を持てないので説明はこんな感じで終わり。プロジェクトを理解していなくてもなんの問題もなく読める作品ばかりなのでご安心を。順番に全部読めば違う発見もあるんだろうけどね。なんせ題材がゴニョゴニョ。
 
「シーソーモンスター」
時代はバブル、昭和後期。製薬会社に勤める北山の家庭では、同居する母親と妻との<嫁姑戦争>に頭を悩ませていた。実は元情報員の妻が巻き込まれたある大事件。
嫁姑問題を良くも悪くも進行させながら、現役ばりのスパイ活動を余儀なくされる妻。家に殺し屋って^^;姑のほうにも秘密があって、力を合わせて夫、息子のために大暴れする2人がなんだか良かった。大団円にならないあたりもまた。
 
「スピンモンスター」
近未来。世界はアナログに回帰し、郵便配達員の水戸は世間を震撼させる大事件の容疑者とみなされ追われることになった。水戸を追う警察官・檜山は水戸の因縁の相手で、彼らは子ども時代に2人同時に家族を全て失っている。水戸は追っ手から逃れながら、人工知能ウェレカセリの暴走を止めなければならない――。
音楽グループγモコとか人工知能とか、色々噛み合わさってよく分からなかった。。絵本作家のあの人が出てきたりヒナタさんの正体が謎だったり、そういう小ネタは楽しめたが。
 
 
2作の中編集ってことでいいのかな。
読みやすく面白いのだけど、いつもの伊坂作品に比べてちょっと物足りなさが。。特に2編目なんてだからどうしたって感じ。テーマが枷になってたんじゃないかなあ。海族山族とか、いかにも伊坂さんらしい感じだけども。~~縛りっていうのも難しいもんだね。
 

巨大幽霊マンモス事件  (ねこ3.9匹)

二階堂黎人著。講談社文庫。

ロシア革命から数年経ったシベリア奥地。逃亡貴族たちが身を隠す<死の谷>と呼ばれた辺境へ秘密裏に物資を運ぶ<商隊>と呼ばれる一団がいた。その命知らずな彼らさえも、恐怖に陥る事件が発生! 未知なる殺人鬼の執拗な追跡、連続する密室殺人、<死の谷>に甦った巨大マンモス……。常識を超えた不可解な未解決事件を名探偵・二階堂蘭子が鮮やかに解き明かす!(裏表紙引用)
 
二階堂蘭子シリーズ第12弾。
「ユリ迷宮」に収録されていた「ロシア館の謎」の続編と考えるのもアリらしい。覚えてないけど。
 
本作は蘭子ら<殺人芸術会>がシュペア少尉の出題した事件を考察し合う「現代」の章と、シュペア少尉がセルゲイ・エフルーシという偽名で体験したシベリア南部<死の谷>連続殺人事件をシュペアと商隊長ルカ・フロローフの日記で交互に綴る1920年代の章におおまかに分かれている。ややこしいが。。めっちゃ簡単に言うとそうなる。
 
バイカル湖の北方にある<死の谷>の奥には金銀財宝が眠っているとされ、ロマノフ家のマンモスがそれを守っているという言い伝えがある。諜報部上官ハンスは、ドイツ人スパイのシュペア少尉を死の谷へ送り込んだ。しかしシュペア少尉とアナスタシア皇女はひっそり愛し合っている。シュペアが潜り込んだ物資の運搬グループ隊長フロローフも妻をカバノフ将軍に奪われており、運搬のどさくさに裏切る予定であった。
そして道中、白軍の中継所や死の谷で密室連続殺人が起きる。あちこちで出現する幽霊マンモスの正体とは?そしてラスプーチンが抱えている予言者の女たちは何を見たのか?
 
メモを必死でとりながら読んだのでなんとか概要は理解しつつ、手記の章に入ってからはあまりの面白さにサクサクと。謎の溶液の中に入っている三人の女も不気味だけど、魔女の館で出会った奇形の少女たちの存在がとっても魅力的。近頃はあまりこういう島田荘司的というか江戸川乱歩的なミステリーがないので、このシリーズの存在は貴重だと思う。トリックがアレでなければもっと良かったが。。。アンフェアではないけど、タブーを使っちゃったな。それでもよくできた仕掛けだとは思うけれど。マンモスの正体については、意外とそのまんまというか。島田さんならもっと驚く真相描けたろうにな。。
 
まあとは言え苦手な蘭子はあまり出ないのでイライラしないし、壮大で楽しめる作品かと。

QED 憂曇華の時  (ねこ3.7匹)

高田崇史著。講談社文庫。

安曇野穂高天祖神社の夏祭り直前に神楽衆の舞い手が怪死する。遺体の耳は削がれ、「S」の血文字が残されていた。数日後、二人目の被害者が。鵜飼見物に石和を訪れていた桑原崇と棚旗奈々は、友人・小松崎からの電話で事件に巻き込まれる。古代海人・安曇族が移住したという地で起きた哀しい事件の因果。(裏表紙引用)
 
QEDシリーズ第21弾。たぶん。
 
このシリーズ、タタルと奈々ちゃんが結婚でもしない限りこれ以外の点数付けようがないというかなんというか。相変わらずタタルの薀蓄はどこまでも凄まじく、事件のほうは付け足し感ばりばり。今回は女系天皇の話や地名人名の字の置き換えなど、まあまあ興味を持てるものをテーマにしていたのでマシだったかな。。分からないところは分からないが。事件のほうは昭和の2時間サスペンスみたいな内容で苦笑。
 
しかし、この2人はやっぱり付き合ってるの?付き合ってないの?奈々ちゃんがタタルの手を握るシーンがあったけど。。タタルも次の旅、奈々ちゃんを普通に当たり前に誘ってるし。奈々ちゃんが一回ハッキリ聞けばしまいだと思うんだけどなあ。でも「いいかね奈々くん、男女の交際というものは日本書紀によると…」とかうだうだ話逸らして語られそうだな。。

方舟  (ねこ4.5匹)

夕木春央著。講談社

9人のうち、死んでもいいのは、ーー死ぬべきなのは誰か? 大学時代の友達と従兄と一緒に山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った三人家族とともに地下建築の中で夜を越すことになった。 翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれた。さらに地盤に異変が起き、水が流入しはじめた。いずれ地下建築は水没する。 そんな矢先に殺人が起こった。 だれか一人を犠牲にすれば脱出できる。生贄には、その犯人がなるべきだ。ーー犯人以外の全員が、そう思った。 タイムリミットまでおよそ1週間。それまでに、僕らは殺人犯を見つけなければならない。(紹介文引用)
 
初読み作家さん。
随分と読書家界隈で話題になっているようなので、読んでみた。「この衝撃は、一生もの」「絶賛・絶句・絶叫 発売即重版」だそうだ。煽るねえ。
 
大学時代のサークル仲間+探偵役7人、道に迷い合流した3人家族の計10人が出口の塞がってしまった地下建築に閉じ込められる。助かるためには1人が部屋に残り、出口を塞いだ岩を除去しなければならない。しかし地下建築は徐々に浸水しており、その1人は確実に死亡する。やがて仲間の1人が絞殺死体で発見され、殺人犯がその場に残るべきだという結論で意見が満場一致する。建築が完全に水没するまでの1週間で真犯人を見つけられるか?そして新たな殺人が――。
 
とても面白い。特殊設定ならではの問題提起がこのヒリヒリした閉塞状況をさらに盛り上げていると思う。犯人が分かったとしても、抵抗されたら?脱出したあとに冤罪だと分かったら?また、殺人犯を見殺しにした自分たちもまた殺人犯なのではないか?子どものいる夫妻は、子どもを助けるためにどちらかが犠牲になってくれるのではないか?登場人物がどう考えるか、どう動くかに共感が得られない限りこういう特殊設定ミステリーは一気に幼稚がかってくるのだが、この作品にはそういう穴がない。この状況下では第2の殺人は起きえないと信じるからこそバラバラで行動するというくだりなんかがそうだ。
 
ところで、トリックや推理自体には特別コレといって目を見張るようなものはない。動機自体も弱い。それもその筈で、この作品の重大な仕掛けはラストに収縮される。全てがひっくり返る驚きの結末には爽快感もあって思わず心で拍手。これは今年のミステリランキングを席巻しそう。
 
蛇足。
大満足だが、文章はぎこちなく最初はかなり読みづらかった。登場人物もほぼ没個性で、マイ読書メモの登場人物一覧に名前以外ほとんど書くことがなかったほど。本格ミステリでは人間を描くことに重きを置いていない作家さんもいるし、キャラクターものではないので自分にとってはこれぐらいは許容範囲かなと思う。ただ、人間に魅力があれば「屍人荘~」と同等の評価をした可能性はある。まあ気に入ったので他の作品も読んでみようかな、と。

殊能将之 未発表短篇集  (ねこ3.8匹)

殊能将之著。講談社文庫。

もはや古典とも評される「ハサミ男」を皮切りに、傑作長篇ミステリを生み出してきた殊能将之は、二〇一三年一月、急逝した。本書に収められた三つの短篇は没後に発見されたもので、ミステリ作家・殊能将之の出発点とも言うべき作品である。「ハサミ男」誕生の経緯を語った「ハサミ男の秘密の日記」同時収録。(裏表紙引用)
 
2013年に急逝し多くのミステリファンに最後の衝撃を与えた作家・殊能将之さん。作品数は少ないものの一応ファンのはしくれとして読破はしているはず。で、この短篇集ももちろん手を出しますよということで。殊能さんにあまり短篇のイメージはなく、収録されている「犬がこわい」「鬼ごっこ」「精霊もどし」を読んでも「あれ?こういう作風の人だっけ?」と少し戸惑った。殊能さんらしさはもちろん残っているのだが、どうにも軽いというか。いや、好みだったし面白かったんだけどね。もう少しとっつきにくい作品だった記憶があるもので(ハサミ男以外)。「ハサミ男の秘密の日記」に関しては、途中までは半分以上創作だと思って読んでいた。だって今時アパートの大家さんに電話を取り次いでもらうとか姉を介してしか連絡がつかないとか^^;。。
 
それよりも殊能さんがかなりお若い頃からSF評論などその筋では有名人だったということに驚いた。ハサミ男は2、3回読み直してるんだけど、他の作品も再読したくなってきたなあ。しまった、処分するんじゃなかった。。