すべてが猫になる

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祝福の子供  (ねこ3.8匹)

まさきとしか著。幻冬舎文庫

虐待を疑われ最愛の娘と離れて暮らす柳宝子。私は母親失格――。悩み続けたある日、二十年前に死んだはずの父親の遺体が発見される。遺品には娘への手紙と猟奇事件の切抜き記事。父の過去を探り事件を追う宝子だったがそれが愛する家族の決死の噓を暴くことに。父の手紙の意味は? 母が犯した罪とは? 愛に惑う〝元子供たち〟を描く感動ミステリ。(裏表紙引用)
 
読破を目指しているまさきとしかさん。5冊目くらいかな?今回もまさきさんらしい、「子どもを愛せない親」について深く掘り下げた本だった。掘り下げすぎかな?と思うぐらい、その対象が自分だったらと考えると暗く重い。それだけではなく、今回は養子斡旋という犯罪にも切り込んだ内容で、その罪の深さや業の深さ、それでも問題提起を続け懊悩し前に進もうとする母親の姿を浮き彫りにしていた。今回の宝子の場合はこういうことだったけれど、同じ悩みを一人で抱えている親はいるのかもしれない。つい数年前までは「母親は子を愛して当たり前」で、そうでない親は失格の烙印を押されていた。まあ、今でもケースバイケースかもしれないが、こればかりは当事者になってみないと分からない。
 
宝子の虐待と愛情が複雑で(理由があったわけだが)、決して好感は持てないし理解しがたい部分も多い。しかし、刑事黄川田の感情だけは許しがたいと思う。仕事一本で育児を丸投げにし、他の男の子どもではないかと疑いその真偽を確かめもしない。なんと自分勝手なんだろう。これは決して黄川田が男だからではないと思う。宝子の父親にもっと色んな話を聞きたかった。
 

イノセント・デイズ  (ねこ4匹)

早見和真著。新潮文庫

田中幸乃、30歳。元恋人の家に放火して妻と1歳の双子を殺めた罪で、彼女は死刑を宣告された。凶行の背景に何があったのか。産科医、義姉、中学時代の親友、元恋人の友人、刑務官ら彼女の人生に関わった人々の追想から浮かび上がる世論の虚妄、そしてあまりにも哀しい真実。幼なじみの弁護士たちが再審を求めて奔走するが、彼女は…筆舌に尽くせぬ孤独を描き抜いた慟哭の長篇ミステリー。日本推理作家協会賞受賞。(裏表紙引用)
 
初・早見さん。以前「店長がバカすぎて」の1話を読んで挫折した経験があるのだが、こちらはジャンルも違うようだし話題作だしということで読んでみた。同じ作者とは思えない吸引力と題材だったな。
 
元交際相手のマンションに放火し妻と双子の娘が焼死した事件で確定死刑囚となった田中幸乃。彼女は罪を認め、ひたすら反省し、刑の執行をおとなしく待っているという。幸乃の人生に関わった多くの人々が封印された過去を暴き出し、幸乃がなぜそうなってしまったのか、彼女は本当にやったのか、マスコミが知らない事件の本当の姿が浮かび上がる。
 
生まれついてのサイコパスというものがいるのかいないのかは知らないが、この事件の犯人・田中幸乃に限っては決してそうではないと断言できると思う。虐待をする親、交通事故で死んだ母親、引き取った祖母、学校の友人、交際相手、幸乃を取り巻く人間の悪意が幸乃という人間の人格を形成したのは間違いない。悲惨な家庭環境でもまっすぐに育つ人間はもちろんいるが、だからと言って幸乃に周りの人間の影響が全くないわけがない、むしろこれでまっすぐに育つほうが困難なのでは。それと無実の人間を殺した罪は別に考えるべきだが、まあそれはこの作品を最後まで読んで語れること。
 
このラストは重たくショッキングなので、不満をおぼえる読者も多いだろうと思う。自分も正直「ええ。。。」と思ってしまった。まあこんなことがあっていいとは思わないし幸乃の考えは追い詰められた末のレアケースだけども、一応小説としてはまとまっているよね。何らかの感情は生まれるわけだから。

もえない  (ねこ3.6匹)

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森博嗣著。角川文庫。

クラスメートの杉山が死に、僕の名前を彫り込んだプレートを遺していった。古い手紙には「友人の姫野に、山岸小夜子という女と関わらないよう伝えてほしい」という伝言が。しかし、その山岸もまた死んでしまったらしい。不可解な事件に否応なく巻き込まれてゆく僕は、ある時期から自分の記憶に曖昧な部分があることに気づき始める。そして今度は、僕の目前で事件が―。(裏表紙引用)
 
面白いタイトルなので気になっていた本。
タイトルの可愛さとうらはらに、きっちりミステリーだった。しかもちょいホラー寄り?とも感じられる雰囲気が。主人公は高校生男子なのだけど、この子の性格に結構問題?個性?があって、簡単に言うと冷めてる。記憶障害もあるので、一体これはどういうお話なのかな~という不思議さが一貫して漂ってる。ふわふわした感じに油断していると、最後わりとドン底に落とされるので注意。しかし、タイトル「可愛い」って言ってた自分を殴りたい。。

四畳半タイムマシンブルース  (ねこ3.9匹)

森見登美彦著。上田誠原案。角川文庫。

8月12日、クーラーのリモコンが壊れて絶望していた「私」の目の前にタイムマシンが現れた。後輩の明石さんたちと涼しさを取り戻す計画を立て、悪友どもを昨日へ送り出したところでふと気づく。過去を改変したら、この世界は消滅してしまうのでは……!? 辻褄合わせに奔走する彼らは宇宙を救えるのか。そして「私」のひそかな恋の行方は。 小説『四畳半神話大系』と舞台「サマータイムマシン・ブルース」の奇跡のコラボが実現!(裏表紙引用)
 
モリミー文庫新刊。「四畳半神話大系」の内容をまったく覚えていないのだがなんとかなった。もちろん「サマータイムマシン・ブルース」も観ていない(舞台って書いてあるけど映画もあるのね)。
 
モリミーはこの京都学生阿呆シリーズ?が1番面白い気がする。大学生たちののほほんとしたおバカな会話を読んでいるだけでも充分楽しめる。言葉選びもセンスあるし、世界観がしっかりできているので人物がたくさん出てきても混乱しない。だけどタイムマシンを使った「コーラでびしょびしょになって壊れたクーラーのリモコンを奪還するぞ、世界滅亡を阻止するために」計画はちょっと混乱した。。未来からもある人が来るからね。ナニひとつ現状を変えてはいけないという決まりのもと、絶対行ってはいけないメンツがよりによって過去に飛んでしまうのが笑える。。。リモコンが時を経てすごい冒険をしてて、リモコンでありながら、いやリモコンひとつでお話はとても壮大。
ヘンな映画ばっかり撮ってる明石さんがいいなあ~。恋は成就したんだろうか、いやしたんだろうな(そこを語らずに語っているのがイイ)。思わずニヤニヤ。25年後もこのアパートに住んでる先輩って一体。。^^;
 
お金はないしモテないんだろうけど、みんな凄く楽しそうだよね。若さってすごい。こういう昭和的〇〇荘みたいなのちょっと憧れるなあ。実際、現代の京都でエアコン壊れたら死ぬだろうけど。。

沈みかけの船より、愛をこめて  (ねこ4匹)

乙一中田永一、山白朝子著。作品解説・安達寛高朝日新聞出版。

破綻しかけた家庭の中で、親を選択することを強いられる子どもたちの受難と驚くべき結末を描いた表題作ほか、「時間跳躍機構」を用いて時間軸移動をくり返す驚愕の物語「地球に磔(はりつけ)にされた男」など全11編、奇想と叙情、バラエティーにあふれた「ひとり」アンソロジー。(紹介文引用)
 
乙一さんのひとりアンソロジー第2弾。いないと思うが知らない方のために。全て乙一さんの別名義、作品解説者も乙一さんの本名。
いっときの乙一さんと比べると、かなり持ち直してきたかなーと思う。
 
「五分間の永遠」 乙一
「五分間」をお題とした児童書用のアンソロジーに収録されたもの。元のタイトルは「キモイ少年」だったらしい、そりゃ変えられるでしょ^^;。五百円あげるから母の前で五分間だけ友だちのふりをして欲しいと言われるってすごいな。お金のためならなんでもする小学生ってのもどうなんだ。設定が乙一さんらしい。最後、お金のためではなかったのにそのふりをするようなカッコつけた台詞がいい。この少年にとって必要なのはたった一人の本当の友だち。
 
無人島と一冊の本」 中田永一
地域雑誌に寄稿したショートストーリー。
ジェームズ・バーンスタインは漂流の果てにたった一人猿の住む無人島にたどり着いた。船長の形見?となった百科事典で文明を築き始める猿たちと、バーンスタインとの交流がいい。しかし知能がつくと悪いやつが現れるのは人も猿も一緒か。これは夢ではなかったと信じたいね。
 
「パン、買ってこい」 中田永一
スポーツ雑誌用の一篇。いじめを肯定するような主人公の性格に問題があるとされ掲載されないのではないか、、と懸念したらしいが無事掲載。こういうのが分からない人が乙一さんに依頼しないわな^^;「魁!クロマティ高校」というマンガに似たようなのがあった。賢い主人公が不良のパシリに使われるうち、合理的な流通ラインを確保し商売を始めるっていう(笑)。あたたかいお話で良かった。
 
「電話が逃げていく」 乙一
どんでん返しアンソロジーの一篇。「でんわが滑るー!」って面白いな、ちょっとコミカルなんだけど実はブラックなオチ。最後まで読むとなぜこれが乙一(ホラー)名義なのかがよくわかる。この主婦の気持ち、全然分からないでもないな、とか言ったら人格疑われそうだ。
 
「東京」 乙一
伝奇小説。サニーデイ・サービスのアルバム「東京」をイメージしたとのこと(私も持ってます)。行為未経験なのに妊娠、出産した女性が息子との数年間の暮らしを大切にするお話。息子の能力ってどういうことだったんだろう?得たものはありそうだけど、再会出来るといいなと思ったり。
 
「蟹喰丸」 中田永一
「お酒」がテーマの作品。余命半年を宣告された男は、蟹喰丸に酒を運ぶ役割を与えられ延命した。嫌われ者の蟹喰丸と会っているのは命惜しさのためではないと証明したい男は…。彼がそれでいいならこういう死に方もいいのかも。
 
「背景の人々」 山白朝子
俳優たちが集まって百物語を始めたという設定。ある女優志望の女性がドラマの現場で遭遇した恐怖とは。歯ぎしりとか見える人とか怖いけれど、主演女優の本性の方が怖いわ。。
 
「カー・オブ・ザ・デッド」 乙一
ニートの日比谷は、山道で往生していたカップルを助けることになった。しかしそのカップルの男のほうはかつて自分をいじめていたアイツだった…。ゾンビもの。ゾンビものは苦手なのでちょっとしんどかったかな。。ラストがシュールで良かったけど。
 
「地球に磔にされた男」 中田永一
「十年」がテーマのSF作品。現代にしか行けないタイムマシンって便利なのかどうなんだろう。時間軸が分かれまくって何百人もの別の人生を歩んだ「俺」がいて、しあわせな俺と入れ替わりたい、っていうお話。そう上手くはいかない。自分のしあわせしか見えていなかった男の成長が読みどころ。
 
「沈みかけの船より、愛をこめて」 乙一
「迷う、惑う」アンソロジーの一篇。両親の離婚が決まり、どちらについていくか子どもたちに選択させるというお話。どちらの方が自分たちをより愛しているか、どちらの方が経済的に安定しているか、再婚の可能性は、など論理的合理的に両親を査定しているお姉ちゃんすごい。。その性格と情の深さがアンバランスで、それがまたいい。
 
「二つの顔と表面」 乙一
最後は人面瘡をテーマにしたミステリー。両親が新興宗教の信者で、自身も活動をさせられている女子高生ユイはクラスでも浮いた存在。ある日クラスのカースト上位の女子橋村さんのカバンに猫の死骸が入れられていたことでユイは冤罪を着せられてしまう。人面瘡アイと共に犯人探しをするユイだが…。橋村さんが意外といい人で良かった。ミステリーとしても読めるけれど、友情のお話でもある。新興宗教の二世問題は根が深いな。。
 
以上。
特に前半に好きな作品が集まっていたかな。でもどれも水準以上の出来で良かったと思う。名義それぞれの個性もあったし、乙一名義が多かったのも好み。山白さん一作だけど。乙一さんが別人のふりをして書いている解説(読者が分かっているということも分かっていながら)も面白い。
 

心霊電流/Revival  (ねこ3.8匹)

スティーヴン・キング著。峯村利哉訳。文春文庫。

少年時代、僕の町に新任牧師がやってきた。仲良くなった僕は、彼の家のガレージで、キリスト像が「静かの湖」の上を渡る電気仕掛けの模型を見せてもらった。やがて、彼の妻と幼い子が突然の事故で無惨に死亡する。敬虔だった彼は、神を呪う説教を最後に、町から姿を消した。27年後、僕は再会する。「電気」にとり憑かれた、カルトを率いる人物となった元牧師と――。(裏表紙引用)
 
キングの最新文庫長篇。
ていうか、邦題、、、ダサい。原題じゃダメだったのか。珍しく各300ページ弱しかない。うす。
 
四きょうだいの末っ子ジェイミーは、ハーロウに越してきた新任牧師ジェイコブスとふとした縁で親交を深めるようになった。はじめは牧師も電気仕掛けの模型を制作し実験しているだけだったが、ある日彼の妻子が交通事故で無残な死を遂げる。彼の精神は徐々に蝕まれ、やがては不気味な電気治療で人々を癒すが…。
 
恐ろしい心霊電流に取り憑かれた牧師の半生を、1人の少年の視点で描いた記述書。というスタイル。ジェイミーが牧師をすごいイヤがってるのに、依頼(命令)されたら諾々と従うのがパターンだな。彼を憎んでいるのに、好奇心には勝てないってやつか。実際、次兄の喉を治してくれたっていう恩もあるしね。ホラーっぽい展開は妻子が亡くなったあたりだけで、あとはジェイミーがバンド活動+恋愛+ドラッグに勤しむ青春時代の描写がメイン。なかなか面白い人生だしこの地域のこの時代のバンド活動の実態とか?興味深かったけれど。どこがホラー?って感じが延々と。さすがに下巻も後半になってくると、懐かしい人びとが悲惨なことになっていたり牧師の患者がえらいことになっていたり、そしてそれを一気にまとめる感じの死者を蘇らせるぜーって感じの大イベントが大盛り上がりを見せる。まあ、そうなるわな、っていう想像の範疇ではあったけれど、少年時代のあたたかい交流が、、大人になるとこんなことになっちゃうんだ、って悲しくなった。
 
それにしても、なんで訳者変えちゃったの?こんな言い回しせんでしょ、っていう訳が気になって残念で仕方がない。せめて「お・ま・え・ら・い・く・ぞ!」とかもうちょっとなんとかならんかったんかい?

これは経費で落ちません!8 ~経理部の森若さん~  (ねこ3.7匹)

青木祐子著。集英社オレンジ文庫

トナカイ化粧品を吸収合併した天天コーポレーションだが、経理部に増員はなかった。 おかげで沙名子たち経理部員は連日残業続き。社内も合併に伴う人事異動や業務整理で、どこかぎくしゃくしている。 社長の代替わりから反目が目立つようになった上司たちの対立は、経理部の業務にも悪影響を及ぼしていた。 落ち着かない社内の空気とは裏腹に、大阪営業所へ転勤となった太陽からはしょっちゅう電話もかかってきて、遠距離恋愛になっても沙名子たちの関係は安定していた。 ところが天天コーポレーションのイベントを取材に来た記者が、太陽の元カノだったことを知った沙名子の心はざわつき始め……? (裏表紙引用)
 
シリーズ第8弾。
天天コーポレーションがトナカイ化粧品を吸収合併してからのお話。やり方も性格も違うし、トナカイで通用したことが天天では通用しないから色々やりにくそう、お互いに。まあでもそのあたりのゴタゴタはあまり書かれておらず、経理部になかなか悪くない新入りを迎えたり、全国で手洗いブースつきのキャンペーンを実施したりとそれなりに新しいことが増えたなって回。金づちで石鹸割る仕事楽しそうだな。相変わらず鎌本は気持ち悪いし問題社員の志保の行動は意味不明だけど、今までの事件?から比べたらたいしたことないかなって感じ。遠距離恋愛中の太陽と沙名子は相変わらずラブラブ…かと思いきや、太陽の元カノ現る。しかも牽制してきてるよ。断固たる態度で対応した沙名子エライ。でも以前の樹菜と比べたらコイツも別にたいしたことないかな。。ていうか、沙名子って太陽にこんなメロメロだったんだ。