すべてが猫になる

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ビブリア古書堂の事件手帖Ⅲ ~扉子と虚ろな夢~  (ねこ3.8匹)

三上延著。メディアワークス文庫

春の霧雨が音もなく降り注ぐ北鎌倉。古書に纏わる特別な相談を請け負うビブリアに、新たな依頼人の姿があった。 ある古書店の跡取り息子の死により遺された約千冊の蔵書。高校生になる少年が相続するはずだった形見の本を、古書店の主でもある彼の祖父は、あろうことか全て売り払おうとしているという。 なぜ――不可解さを抱えながら、ビブリアも出店する即売会場で説得を試みる店主たち。そして、偶然依頼を耳にした店主の娘も、静かに謎へと近づいていく――。(裏表紙引用)
 
ビブリアシリーズ、シーズン2第3弾。ややこしいよね、栞子さんの時は番号振ってたのに。Ⅱの1、とかじゃダメだったのかな。こだわりかしら。
 
ということで第3弾は古書市が舞台。扱う本は映画パンフレットや樋口一葉ドグラ・マグラなどなかなか香ばしい回。今回の依頼はある中年女性からもたらされたもので、亡くなった元夫の蔵書を息子に相続させたいが息子の祖父(元舅)が全て売り払おうとしているという。登場する息子の恭一郎は新高校生で、祖父の頼みで古書市の手伝いのアルバイトに参加。本はまったく読まないけど真面目でなかなかいい子。扉子ちゃんのことが気になっているのかな?「先輩」呼びに萌える扉子に萌える。
 
それぞれ悪意のある客であったり勘違いであったりとミステリーとしてきちんと読めるうえに、栞子の母・智恵子が暗躍する恐ろしい回。この得体の知れなさは一体ナニ。。全然距離縮まらないけど、「母は寂しいんだと思う」という栞子の言葉は何か未来に繋がるといいけれど。
 
この本を読んでドグラ・マグラを読みたくはならなかったけれど(もう一生ムリだと思う)、作家や本にまつわる薀蓄は相変わらず面白かった。見栄で重版を偽るなんてことがあったのか。。

少年検閲官  (ねこ3.8匹)

北山猛邦著。創元推理文庫

旅を続ける英国人少年クリスは、小さな町で家々の扉や壁に赤い十字架のような印が残されている不可解な事件に遭遇する。奇怪な首なし屍体の目撃情報も飛び交う中、クリスはミステリを検閲するために育てられた少年エノに出会うが…。書物が駆逐される世界の中で繰り広げられる、少年たちの探偵物語本格ミステリの未来を担う気鋭の著者の野心作、「少年検閲官」連作第一の事件。(裏表紙引用)
 
先日発売された「オルゴーリェンヌ」を読もうと思ったら続編だと分かったので第一弾のこちらから。そんなにそそられない作品だったので読みこぼしてたのだけども、意外と好みの世界観だったし思っていたよりずっと面白かったかなー。
 
書物の所持が禁止され、検閲によるラジオ放送だけが情報源の世界。暴力は排除され、一見平和な時代に見えた。イギリス人の少年クリスは、一人旅の途中たどり着いた日本の土地で赤い十字架の印や首なし殺人などの不可解な事件を知る。日本の宿屋で謎を考察しながら過ごすうち、検閲官の少年エノと出会うが…。
 
エノの登場が遅くてヤキモキするものの、概ねキャラクターは全員個性的で魅力あるふうに描かれていると思う。北山さんお得意のメルヘン世界に合っているし(イラストの魅力が大きいのもあるが)。ちょっと気取った、だけど少年くささと現実離れした感じは異国情緒を漂わせるし(設定はなぜか日本だが、言われないと分からないくらい英国風味)。不可能犯罪、奇想天外な事件を描かせたら右に出る者はいないほどの作家だと思うが、肝心のトリックまでもが非現実的でありえなくて…みたいなところもまんま安定の北山ワールドだった。その動機や狂人のこだわりは自分の趣味に合っていたので許容範囲。またクリスとエノのコンビが読みたい。続編が楽しみだ。

人生激場  (ねこ4匹)

三浦しをん著。新潮文庫

気鋭作家の身辺雑記、だけに終わらぬ面白さ! プレーンな日常を「非日常」に変えてしまう冴えた嗅覚。世間お騒がせの事件もサッカー選手の容貌も、なぜかシュールに読み取ってしまう、しをん的視線。「幸せになりたいとも、幸せだとも思わないまま、しかし幸せとはなんだろうと考えることだけはやめられない」。美しい男を論じ、日本の未来を憂えて乙女心の複雑さ全開のエッセイ。(裏表紙引用)
 
久しぶりにしをんさんのエッセイ。
いやー、笑った笑った。ほんとしをんさんにエッセイを書かせたら右に出る者はいないと思う。2002年ごろに書かれたものなのでちょこちょこ話題は古いが、そんなことは問題にならないぐらい面白い。しをんさんのお友だちも全員クセがあって面白いから、こんな楽しい人たち一体どこに生息しているんだろう?と世界の広さにまで思いを馳せてしまう。
 
洗剤CMや宅配ピザの美少年、新幹線で隣に座るサラリーマンなど、日常の妄想ネタにはお腹よじれそうなぐらい笑った(心の中で)。不眠対策にカツラを被るお友だちもいいなあ。意味わからん笑。ドラマの設定へのツッコミから最終回予想、アイドルのしつけにまで妄想は膨らみ一体しをんさんの脳内はどこまで行ってしまうのか(サッカーや麻雀の話にはついていけなかったが)、イケメンに対する妄想はほぼセクハラ気味だが(笑)、数年後に書かれたあとがきを読むにいつになっても幸せそうなしをんさんでとりあえず良かった。他の読みこぼしも読もう!もうずっとエッセイだけ書いていて欲しいなあ~。とか言って。

彼女が最後に見たものは  (ねこ4匹)

まさきとしか著。小学館文庫。

クリスマスイブの夜、新宿区の空きビルの一階で女性の遺体が発見された。五十代と思われる女性の着衣は乱れ、身元は不明。警視庁捜査一課の三ツ矢秀平と戸塚警察署の田所岳斗は再びコンビを組み、捜査に当たる。 そして、女性の指紋が、千葉県で男性が刺殺された未解決事件の現場で採取された指紋と一致。名前は松波郁子、ホームレスだったことが判明する。 予想外の接点で繋がる二つの不可解な事件の真相とは――!?(裏表紙引用)
 
「あの日、君は何をした」続編。
事件を捜査する三ツ矢刑事&田所刑事のコンビが続投ということで、事件そのものは繋がっていないのでここから読んでも問題はないかと(三ツ矢の過去などが記述されるので順番通りに読む方がいいが。どっちやねん。)
 
新宿で、ビルから突き落とされたと思われるホームレスの女性の遺体が発見された。その女性の指紋が、千葉県で刺殺された男性から採取したものと一致。2つの事件はどこでどう交差するのか。
 
くも膜下出血で死亡した直後トラックに轢かれたホームレス女性(松波郁子)の夫、そして更年期障害が重く働けなくなった郁子に行政は冷たかった。郁子を担当した市役所員の態度も相当ひどいが、その妻の境遇も輪をかけてひどい。インスタでの虚構などは夫に原因があろうし、交通事故を起こし家庭が崩壊した井沢の妻の夫への罵詈雑言、理不尽な仕打ちだって全面的に彼女の言い分がおかしいとも思わない。諸悪の根源がどこにあるのか、他人が他人へ与える影響はどこまで自己責任なのか、色々と身につまされるものがある。おかしな言動をするなあと思わせる人物はやはりキーマンとなるので分かりやすいと言えば分かりやすいが、郁子が辿った人生やその意外な人柄、真犯人の動機、郁子と思いもよらない人びととの交流などはかなり意外性に富んでおり、最後は思いもかけぬ感動を生んだ。端から見れば哀れで悲しい人生、だけど彼女は本当に不幸だったのだろうか、読者に強く問いかけてくる力作。
 
まさきさん3冊目だがハズレがない、特にこのシリーズは強い。読破したい。

とむらい家族旅行/He Started It  (ねこ3.8匹)

サマンサ・ダウニング著。唐木田みゆき訳。ハヤカワ文庫。

ずっと疎遠でいた兄妹、エディーとベス、ポーシャは、亡くなった祖父の莫大な遺産を受け取るため遺言にしたがっていっしょに旅に出ることになる。20年前に祖父が彼らを連れていったアメリカ横断ドライブ旅行を、祖父の遺灰を車に乗せて完全再現するのだ。彼らの過去の旅は、奇妙で危険な秘密を孕んだものだった。そして現在の旅も、はじまりから狭い車内には不穏な空気が……。(裏表紙引用)
 
サマンサ・ダウニング二冊目。単に面白そうだと思って注文した本なので、「殺人記念日」と同じ作者だってしばらく気付かなかった。「殺人記念日」はかなり面白く好みだったので自分はつくづく好みが一貫しているんだなと思ったり。
 
さて二作目はちょっと不穏な家族旅行をテーマにしたミステリー。兄と、<私>と、妹と、兄嫁と自分の夫。祖父の遺言に従い、祖父の遺灰とともにアメリカ横断長距離ドライブ。20年前の旅行をそのままなぞることにどんな意味があるのか?いなくなった長女、ニッキーの行方は?彼らの旅を邪魔するピックアップトラックの正体とは?謎がたくさん提示され、謎が謎のまま旅は進む。決して円満とは言えない関係のきょうだいとその配偶者たち。仲の良くない同士で延々とドライブ旅行って地獄だろうな…仲良くても3日目あたりからしんどくなってくると思う。そして1人抜け2人抜け…。
 
まあそれなりに謎が小出しにされていくので面白いのは面白いのだが、ダラダラのんびり長すぎるかな~という印象。ラストに畳み掛ける怒涛の展開もなんだか不発に終わっちゃった感。最後のあの人物の行動も意味わからんし。え、それでどうやって目的達成するつもり??って感じで消化不良だなあ。なんだかとにかく意外であればナンでもいいやって印象だったのが残念だな。こういう作品で日記が登場した場合、たいてい記述者の名前がハッキリ書かれてないから「あ、これ違うな」ってなんとなく分かっちゃうし。まあ読みやすくて楽しいのは間違いないけど。翻訳ものなのに1時間130ページくらい読めちゃうよ。
 

死刑にいたる病  (ねこ4匹)

櫛木理宇著。ハヤカワ文庫。

鬱屈した日々を送る大学生、筧井雅也(かけいまさや)に届いた一通の手紙。それは稀代の連続殺人鬼・榛村大和(はいむらやまと)からのものだった。「罪は認めるが、最後の一件だけは冤罪だ。それを証明してくれないか?」地域で人気のあるパン屋の元店主にして、自分のよき理解者であった大和に頼まれ、事件の再調査を始めた雅也。その人生に潜む負の連鎖を知るうち、雅也はなぜか大和に魅せられていき……一つ一つの選択が明らかにしていく残酷な真実とは。 『チェインドッグ』を改題・文庫化。(裏表紙引用)
 
初読み作家さん。阿部サダヲ主演で映画化されたので知った作品。櫛木さんも気になっていた作家さんなので旬かなと思って読んでみた。
 
10代の少年少女を攫っては拷問し殺害していた連続殺人犯(死刑囚)、榛村から1人の大学生のもとに手紙が届いた。筧井雅也は将来を有望視されていた<元・優等生>で、現在は挫折し鬱屈した日々を過ごしている。何の接点も能力もない自分になぜ死刑囚から手紙が?榛村からの手紙は、自分の犯行の9件のうち1件は冤罪だと主張しているが――。
 
主人公雅也の性格はネガティブで自意識過剰、典型的な「覇気のない若者」なので最初は読んでいてイライラする。こういう人って、せっかく自分をすくい上げてくれようとしている存在に気づかないんだよね。まあそんなイライラも中盤まで。雅也は榛村ゆかりの人びとに取材を続けていくうちにすっかり逞しくなってしまうのだから。おお、良かったじゃんと思ったはいいけど、これってよく読んだら榛村に取り込まれてるだけなんだよね~~~~。それを見抜いた灯里はすごいと思う。誰もが見惚れる美少年で、田舎では容姿端麗愛想抜群で男にも女にもモテモテだったという榛村。多くの人が彼に好かれたい、彼にハマりたいと夢中になったというエピソードは決して理解できない世界ではないと思う。ワルなんだけど人を惹きつける人っているもんね。ここまでじゃないにしても。
 
結局榛村の不気味さ得体の知れなさはいつまでも払拭されなかったので、こういう真相だったことは自然と腑に落ちた。こういう生まれついてのサイコパス(生育環境がそうさせたという意見もあり、それは否定しないけどサイコの素養はあったのでは)って人をコントロールするのがうまいんだな。自分も気をつけないと。
 
というわけで期待以上に面白かった。他の作品も面白いのかな?試してみたい。

ただいま神様当番  (ねこ4.2匹)

青山美智子著。宝島社文庫

ある朝目を覚ますと、腕に大きく「神様当番」という文字が!突然現れた神様のお願いを叶えないと、その文字は消えないようで…?幸せの順番待ちに疲れたOL、弟にうんざりしている小学生の女の子、リア充と思われたい男子高校生、乱れた日本語に悩まされる外国人教師、部下が気に入らないワンマン社長。ムフフと笑ってほろりと泣ける、5つのあたたかい物語。(裏表紙引用)
 
最近ハマっている青山さんの文庫新刊。中でも楽しみにしていたやつ。ううん、やはりハズレがないね、現在新しいお気に入り作家さんの中でこの人が独走中。
 
悩める登場人物がファンタジックな現象を体験し、それにヒントを得てポジティブな気持ちを手に入れる、っていうのが青山作品の定番なのかな。今作でのそれはなんと「神様」。と言っても対象者が神様になるのではなくて(読むまでそう思っていた)、神様と名乗る謎のお爺さんに取り憑かれる、と言うほうが適しているかな。朝起きたら腕にぶっとい刺青のような「神様当番」という文字が現れ、神様のお願いが叶うまで消えない。そのお願いは人によってさまざま。リア充になりたい、とかえらくなりたい、など。全部各話のキャラクターが「なりたいもの」に設定されているので、それを表面的ではなく誠意を持って実現するかどうかがミソ。
 
何かいいことがないか待っているだけのOL咲良、生意気でダサい弟がイヤで仕方がない千帆、ただ1人の美人フォロワーだけが生きがいの直樹、日本語はうまいのに生徒とうまく意思疎通ができないリチャード、社員に団体で裏切られた傲慢な零細企業社長。どれもあるある感が良かった。年代も性別も悩みも全く違う5人だけれど、目の前の大切なことに気づけていないという点では同じな気がするな。