すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

白戸修の狼狽  (ねこ3.6匹)

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大倉崇裕著。双葉文庫

なんとか中堅出版社に就職した白戸修。事件とは無縁な生活を送っているかと思いきや、鬼門である中野で、またまたトラブルに巻き込まれていた。でもやっぱり困っている人は見過ごせないし、人の頼みも断れない。クスッと笑えて、ほろっと泣けるハートウォーミングなミステリー、待望のシリーズ第二弾。(裏表紙引用)
 
久々~~~~に読む白戸修シリーズ第2弾。面白かった記憶だけはあるが…万引きGメンの話とかなんとなく覚えてるけど。と、いうわけで日本一のお人好し探偵白戸修の巻き込まれ物語の数々。
 
「ウォールアート」
模型雑誌の表紙イラストレーターのところへスプレーを届けることになった白戸くん。しかし道に迷っているうち、その町民たちを最近悩ませている落書き犯と間違えられ…。便乗犯の存在や怪我をした元教師などなど、落書きと言っても色々複雑に関係してくる。犯人多すぎ…。でも白戸くんが仕事でもお手柄になって良かったね。
 
「ベストスタッフ」
先輩仙道の強引な誘いで、コンサートの設営スタッフのバイトをするはめになった白戸くん。ペンキ爆弾や折れる台車の謎などなど、ヘタしたら何千万の損害だし、人命にも関わるというのに…くだらない理由。また複数犯人、というか事件が色々起きてる感じ。
 
「タップ」
道でポーチを拾った白戸くんは、警察に届けようとした矢先おかしな女性に車に連れ込まれてしまう。女性は盗聴バスターズだったのだ。盗聴器を部屋に仕掛けられまくっていた女性についてのドタバタに巻き込まれた白戸くんだが…。バスターズの冴子さん、めっちゃカッコイイキャラだなあ。再登場希望。色々女性側にも人生があったわけだけど、しんみりくる終わり方で良かった。
 
「ラリー」
電車から飛び出しトイレに逃げ込んだ男が落とした定期入れを渡しに行った白戸くん。だが怪しい男が現れ、怪しすぎる高額バイトの相棒にさせられてしまう…。この作品人気あるんだね。東京駅の名前ずらずら並べられても位置関係分からないし、毎回行く先々で敵チームが現れて男がやっつけて…って流れが続くのでしんどかった。。この探偵の男と最後に出てきた大葉って「無法地帯」のキャラだね。忘れてたけど。
 
「ベストスタッフ オリキ」
今度は男性アイドルグループのお披露目コンサートの警備バイトをすることになった(やはり仙道に強引に)白戸くん。オリキのユカさんが何者かに狙われ、またしても巻き込まれてしまう。ダフ屋のニトロカッコイイな。黄色い帽子の謎やゆるんだボルトなどなど、白戸くんがまたサクっと推理。白戸くんそのうち命なくなるな。。。
 
 
以上。
まあ安定の面白さというか。ちょっとヲタク要素強めで引いてしまった今作だけれど、白戸くんのお人好しっぷりにほのぼの。せっかく出版社の色々な部署を回るという設定があるのだから、そういう方向で行くのかなと思ったが…。あんま関係なかった。

下町ロケット ガウディ計画  (ねこ4匹)

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池井戸潤著。小学館文庫。

ロケットエンジンのバルブシステムの開発により、倒産の危機を切り抜けてから数年―。大田区の町工場・佃製作所は、またしてもピンチに陥っていた。量産を約束したはずの取引はあえなく打ち切られ、ロケットエンジンの開発では、NASA出身の社長が率いるライバル企業とのコンペの話が持ち上がる。そんな時、社長・佃航平のもとに、かつての部下からある医療機器の開発依頼が持ち込まれた。「ガウディ」と呼ばれるその医療機器が完成すれば、多くの心臓病患者を救うことができるという。ロケットから人体へ―。佃製作所の新たな挑戦が始まった!(裏表紙引用)
 
下町ロケット続編。前回はロケットエンジンのバルブを作っていた佃製作所、今回はなんと人体の世界へ。一部上場大手の日本クラインから、人工心臓のある部材の試作品を作ってもらえないかという話が持ち込まれた佃製作所。しかし量産の話も立ち消えになり、サヤマ製作所社に出し抜かれてしまった。そして若手エンジニアの中里の不満が爆発し、佃製作所を辞めてサヤマへ転職してしまうが…。
 
うーん、今回も勧善懲悪のスカっとするお仕事ストーリー。佃さん相変わらずアツい。佃品質、佃プライド。あったなあ、懐かしい。前作や「陸王」に比べたら悪役が完全な悪役ではない感じがして(元々は誠実な医者だったはずの貴船とか、辞めて裏切った中里とか)、読んでいて「早くギャフンと言わせろ!」とはそれほどならなかった。サヤマの椎名とか審査員の滝川とか、どうにもならなそうな人間も確かにいたけども。ビジネスが金儲けや出世なのは分かるけども、夢や情熱、誠実さを欠いたら生きる甲斐がないよね。綺麗事かもしれないけど、佃製作所のみんなや娘を失った編み物会社の桜田さんを見てたらそう思えるな。
 
そして今回の主役は、出番は少ないけれども頑張った立花と加納ちゃん、そして子どもたちだと思う。立花が審査会?で熱弁したシーンとか目がうるっと来たもん。どちらかと言うと感動の要素のほうが上になった作品かもしれない。さて次の佃製作所は何を作るのかな。

御手洗潔と進々堂珈琲  (ねこ3.5匹)

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島田荘司著。新潮文庫nex

進々堂京都大学の裏に佇む老舗珈琲店に、世界一周の旅を終えた若き御手洗潔は、日々顔を出していた。彼の話を聞くため、予備校生のサトルは足繁く店に通う―。西域と京都を結ぶ幻の桜。戦禍の空に消えた殺意。チンザノ・コークハイに秘められた記憶。名探偵となる前夜、京大生時代の御手洗が語る悲哀と郷愁に満ちた四篇の物語。(裏表紙引用)
 
御手洗潔シリーズ第27弾。
京大生時代の御手洗さんのお話。語り手は京大を目指す予備校生サトルで、いつも行きつけの進々堂で会う御手洗さんと親しくなる。世界一周帰りの御手洗さんの色々な話を聞くのが楽しみなのだ。…という、いつもの御手洗シリーズとはかなり毛色の違うアプローチ。
 
サトルが故郷港町で体験した、学生時代の失恋話。初めて大人に差別のない対応をされたという御手洗さんの言葉が染みる。まあ若い頃の苦い憧れの思い出という感じで特別変わった話でもない。
 
「シェフィールドの奇跡」
御手洗さんがイギリスで出会った発達障害の少年の思い出。重量挙げの才能を見せ始めた少年だが、偏見と差別に打ちのめされる。少年が最後に見せた頑張りが凄い。努力とか忍耐だけではない、「怒り」が原動力なんだろうなと感じた。単なる「スカっとする話」とかではないな。闇が深い。今はパラリンピックとかあるけれど。
 
「戻り橋と悲願花」
騙されて日本で勤労奉仕をする朝鮮人姉弟の話。内容が胸糞悪すぎて読むのが苦痛。戦争というものの愚かしさにウンザリする。日本人も酷いが彼らも迫害されてきた、これが戦争なのだ。ところで彼岸花は私も祖母から怖いイメージを植えつけられたなあ。
 
「追憶のカシュガル
御手洗さんが出会った、街で迫害されているウイグル人の老人の話。ウイグルの歴史や誇りについて長々と。唯一出会えた日本人の友人と何があったのか。それが分かった時は虚しい気持ちになった。気持ちは分かるが…。ダメなことをしてしまったね。その後の彼の贖罪の気持ちの強さに圧倒される。
 
以上。
ミステリではない…。ここ最近こういう歴史物語ばかりだなあ、島田さん。映像化に合わせたんだろうけど、こういうタイトルと表紙でこの内容だったら期待していたものと違った、って人多いんじゃないかなあ。御手洗さんも御手洗さんじゃないみたいだし、サトルのキャラが全然生きていないような。面白いのは面白いと思うのだけど、こういうのが読みたい気分じゃなかったので…うーん、全体的にあんま好きじゃないかな。。。

エッジウェア卿の死/Lord Edgware Dies  (ねこ3.7匹)

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自宅で殺されたエッジウェア卿の妻は、美貌の舞台女優ジェーン・ウィルキンスンだった。彼女は夫との離婚を望んでおり、事件当夜屋敷で姿を目撃された有力な容疑者だった。しかし、その時刻に彼女はある晩餐会に出席し、鉄壁のアリバイがあった…数多の事件の中でももっとも手ごわい敵に立ち向かう名探偵ポアロ。(裏表紙引用)
 
ポアロシリーズの7作目。
 
ポアロシリーズでは珍しいことだが、全く内容を覚えていなかった作品。久しぶりに読み返してみて、なるほどこりゃ印象に残らなかったのも分かる。最近記事にしたあるポアロ作品に酷似しているのだ。某作品とは違いヒロインに特別魅力を感じなかったのは、登場頻度が低かったせいもあるだろう。そこはしょうがない。(似ているのには理由があるらしい。)
 
一見アリバイ崩しものだが、数々のミスリードが複雑に絡み合い、意外性のある犯人という狙いにははまっている作品かと思う。届かなかった手紙、被害者の鼻眼鏡、卿の苦悶の表情、謎の電話、ちぎられた手紙。ポアロが単純な事件を自ら複雑にしてしまった感もあるが(懲りないなあ…)、人間心理を読み解くことには長けている。証言というものはいかに自分の都合のいいように作られていくものか。犯人の頭の良さという点では某作品よりは上だと思われる。

邪悪の家/Peril at End House  (ねこ4.5匹)

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名探偵ポアロが出会った美女ニックは、古びた邸の所有者であった。彼女は「三度も命を狙われた」ことを告白するが、まさにその最中、ポアロの目の前で彼女の帽子が撃ち抜かれた!ポアロは真相を探るべく邸に赴くが、手がかりはまったくつかめない。不安が支配する中、邸でパーティが催されることになるが…。(裏表紙引用)
 
ポアロシリーズの第6作目。
 
他社や映像では「エンドハウスの怪事件」として世に出ている作品なのでご注意。
個人的に、ポアロものでは5本の指に入るほどとても好きな作品である。なぜ今積極的に映像化されないのか不思議だ。ケネス・ブラナーでやるには地味かもしれないので三谷幸喜版に期待したい。
 
犯人を知った上で読むと、他作品に比べ犯人はわかりやすいのだなと感じた。明確なヒントが多い。ポアロが容疑者をAからJまで並べてリストにするところが特に好きで、この作品のポイントでもある。10人の容疑者が全員それなりに怪しそうな背景を持っているのよね。全てが解明されるところも気持ちいい。実は犯人にちょっと惹かれてしまう要素もあって、邪悪なものに惹かれる自分への背徳感?のようなものも楽しめるのかもしれない。ラストが芝居形式なのもドラマチック。中盤がテンポゆっくりな分、待ってましたとばかりに全てが白日のもとにさらされる快感。
 
でもちょっとこの事件のポアロは可哀想だったね。犯人に手玉に取られたというか。まあ、ポアロが自分を責めれば責めるほど自慢にしか聞こえない(ヘイスティングズ談)からいいけど。。

シタフォードの秘密/The Sittaford Mystery  (ねこ3.8匹)

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雪に覆われ下界と遮断されたシタフォード村の山荘。そこに集まった隣人たちが退屈しのぎに降霊会を試みる。現われた霊魂は、はるかふもとの村に住む老大佐の殺害を予言した! 駆けつけると、大佐は撲殺されており、しかも殺害時刻は、まさに降霊会の最中だった……絶妙のトリックが冴える会心作。(裏表紙引用)
 
ノンシリーズ。
犯人だけは覚えていたのでそこの楽しみは横へ置くことにした。ポアロやマープルといった人気のシリーズ探偵が登場しないながらも、典型的なクリスティーミステリーである。
 
この作品の楽しみどころは何と言ってもエミリーという魅力的な女性の存在だろう。婚約者が逮捕され、無実を信じながら、記者のチャールズと共に警察さながらの調査を行うキャラクター。勇気と行動力の塊のような女性であり、愛する男性のために尽くす健気さもある。ナラコット警部の存在が完全に霞んでしまった。頑張ってくれていたけどね。
 
鍵が開いているのに大雪の中なぜガラスドアから入ってきたのか、という点と、降霊術によって大佐が殺される時間まで予言されていたことがこの事件の肝である。犯人がこの人物ならば単純明快で、ついでに動機もうんざりさせられるような人間くさいものである。ある物がなくなっていたことを手がかりに、トリックに思い至る点が素晴らしい。特別これといって目立つ作品ではないが、シンプルながらも良作ではないだろうか。
 
さて、エミリーが最後に選んだパートナーはどちらだろうか。個人的には選ばれなかった彼のほうに行って欲しかったが…。エミリーはそういう女性ではない、分かっていたこと。

死との約束/Appointment with Death  (ねこ4匹)

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「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃ…」エルサレムを訪れていたポアロが耳にした男女の囁きは闇を漂い、やがて死海の方へ消えていった。どうしてこうも犯罪を連想させるものにぶつかるのか?ポアロの思いが現実となったように殺人は起こった。謎に包まれた死海を舞台に、ポアロの並外れた慧眼が真実を暴く。(裏表紙引用)
 
エルキュール・ポアロシリーズ長編第16弾。ドラマ化に合わせて予習&復習を。この記事は15弾を読んだあと公開予定で21.2.18に書きました。
 
この作品は結構好きなほうだったので、ところどころ記憶があった。舞台は中近東だし、ポアロが本格的に登場するのは第二部からなのだが、物語にとても吸引力があるので探偵不在でも面白いのだ。何より、冒頭の衝撃的な台詞。誰を殺そうとしているのかは予想がつくし、その会話が誰と誰だったのかはすぐに明かされるしそれほど重要ではない。だって殺しの計画を話すだけなら犯罪ではないし、実際に彼女を殺したのかどうかは分からないから。被害者の老婆はとにかく誰にとっても憎たらしい存在で、よく今まで生きていられたな、というぐらい性格が悪い。元刑務所の女看守だったらしいのだが、家族を服従させなくては気が済まない、誰かを陥れなければ生きがいがない、というような人物なのだ。見た目も醜悪だと聞く。老婆には前夫の子どもである長男と次男、長女と長男の嫁、そして実子である次女がいる。成人し、結婚しているのに関わらず彼らは家から出ることもできず、お金も持たされず、行動の自由がない。他人と関わることも許されない。なんでこんなに全て言いなりになっているのか、とイライラさせられるが、老婆の呪いが効かない長男の嫁や頭のおかしくなった次女、彼らと旅行先で出くわした女医のサラがその異常な関係性に変化を与えていく。。なかなか老婆が死なないので(なんという言い方^^;)もどかしいが、禁じられたロマンスや不倫、老婆の謎の言葉など、惹きつける要素ばかりで読む手が止まらない。
 
ポアロの推理は全員に話を聞いて矛盾点をついたり行動の確認をしたりといつも通り。過去の因縁や彼らのちょっとした言葉や行動から正しいものだけを取り出して真犯人を暴く。中にはミスリードもあるので、予想と外れて悔しい思いをしたりも。家族の再生物語でもあり、一人の哀しい老婆の物語でもあり、もちろんあちこちでカップルも誕生するクリスティーらしさ満載の作品。大満足。旅行気分も味わえるよ。
 
※ドラマでは、舞台をエルサレムから熊野古道に変えて作られるらしい。楽しみだ。しかし、おどおどした次男は市原隼人ではなく長男役の山本耕史のほうが合っている気がするのだが…。それも踏まえて、やはり楽しみ。