すべてが猫になる

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危険なビーナス  (ねこ3.8匹)

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東野圭吾著。講談社文庫。

独身獣医の伯朗のもとに、かかってきた一本の電話―「初めまして、お義兄様っ」。弟の明人と最近、結婚したというその女性・楓は、明人が失踪したといい、伯朗に手助けを頼む。原因は明人が相続するはずの莫大な遺産なのか。調査を手伝う伯朗は、次第に楓に惹かれていくが。恋も謎もスリリングな絶品ミステリー。(裏表紙引用)
 
東野さんの文庫新刊はノンシリーズもの。獣医絵画数学恋愛ミステリー?(笑)。
 
獣医師の伯郎は子どもの頃父親を亡くし、新しい父親・康治を受け入れられないでいた。16年前に母親も亡くし、義弟や康治とは絶縁状態となったが、獣医師として地道に生計を立てていた。そんな折、義弟の妻だと名乗る楓という女性から電話がかかってきた。義弟が行方不明だというのだ。伯郎は楓の希望で共に危篤状態となっている康治のところへ見舞いに行くことになったが、複雑な人間関係と隠された謎に巻き込まれていく。
 
いやいや、さすが読ませる。東野さんらしいあるテーマが絵画、動物実験とうまく絡めて優れたミステリーに仕上がっていた。行方不明事件と実の父親の遺品である絵画をめぐってどう展開するのか興味深かったし、自由奔放な楓の強引でハラハラする調査に緊張しっぱなし。次々と明かされる亡き母親の死の謎や、実の父親が陥った状況は信じられないようなものばかり。動物実験のくだりは読んでいられなかったな。義父(実際は籍を入れていないが便宜上こう呼ぶ)を拒否する伯郎の気持ちは分かる気がする。後天的〇〇〇〇症候群というのは実際にあるのだろうか。脛に傷持つ人々や怪しいだけの人物が事件を混乱させるが、最後には収まるべきところに収まった感じかな。
 
まあ、ミソを付けるようで申し訳ないが。楓と伯郎のキャラクターに好感を持てればもっと高評価でも良かった。伯郎の惚れっぽさというか単純さというか…恋愛経験ないのかな。。楓については東野さんの描く女性の悪いところを全部集めたようなあり得なさで終始イライラさせてくれたが、まあこれは驚きの事情があったので仕方ないということで。他が良いので結末は読まなかったことにしたい。

犯人IAのインテリジェンス・アンプリファー 探偵AI 2 (ねこ4.2匹)

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早坂吝著。新潮文庫nex

人工知能探偵・相以の驚異的な推理力に大敗を喫した以相。復讐に燃える彼女は、人間の知能を増幅させ完璧な共犯者を造り、相以に挑戦状を叩きつけた。ゴムボートで漂着した死体、密室で殺された漁協長、首相公邸内殺人事件。連鎖する不可解な事象を読み解く一筋の推理の紐は、なんと以相の仕掛けた恐るべきトリックの導火線だった!?奇想とロジックが宙を舞う超絶推理バトル再燃。(裏表紙引用)
 
探偵AIシリーズ待望の続編、わーい。前作の設定、展開をそのまま引き継いでいるので記憶を呼び起こしながら。話が込み入っている上にかーなーりーややこしく複雑な推理なので、メモを取りながら読んだ。相以の推理は結論を先に言って詳細は後回しにすることが多いので、サラっと読んでたら分からなくなると思う、これ。
 
今回は人工知能の以相が相以に真っ向から勝負を挑む。前回も登場した右龍が実は三つ子であり、母親は女性初の首相だということが判明。対馬で発見されたゴムボートに乗せられた射殺体事件と、壱岐で発生した漁協組合長撲殺密室事件がどう絡むのか。以相は自分が「右龍」と協力して三人を殺すと予告。さらにオクタコア関係者や謎の人工知能の存在が関わって…。「右龍」とは誰を指すのか?凶器がナイフじゃなかったのはなぜ?壱岐でばらまかれたウォンの意味は?トロッコ問題はどうなる?謎だらけでワクワクするね。
 
国際問題に発展するもしないも展開次第なのだが、この作品は早坂さんの新規開拓と言ってもいいかもしれない。三つ子という推理小説界ではタブーの多い難題に挑戦しつつ、人工知能同士のバトルを乖離させず、さらには恋愛ゴトやマザコン要素までもが全て密接に絡み合ってくるのがさすがだなあ。ゴムボート事件のトリックはさすがにバカミスすれすれかもしれないが、世界観がかなり壮大なのでこれならば通用するかと。行政の息子が親に似ていない理由にビックリ。三つ子の職業も全て事件に生きているし、それぞれの性格によってどう行動するかっていう微妙なところさえもロジックでねじ伏せている感じ。できれば最後の、以相の計画も相以に推理して欲しかったけど。
 
それにしてもあの首相、人格にかなり難があるね。こういう人物の元に生まれてしまったことが不幸としか言いようがない。

テンペスタ 最後の七日間  (ねこ3.7匹)

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深水黎一郎著。幻冬舎文庫。 

東京で美術の非常勤講師を務める賢一は、田舎に住む弟の依頼で一人娘を一週間預かることに。駅で待っていたのは、小学四年生の美少女・ミドリ。毒舌全開、自由奔放なミドリに圧倒されながらも刺激を受ける賢一。徐々に距離を縮める二人に、刻々と予想外の出来事が忍びより――。二人の掛け合いと怒濤の展開に目が離せない一気読みミステリー。(裏表紙引用)
 
大学の非常勤講師をしている賢一が弟の頼みで姪を1週間預かることになり、姪の傍若無人ぶりに翻弄されるもだんだん情が移っていく、というお話。
 
――という結構ありふれた題材なので安心して読んでいたが、姪のミドリがなんともまあ凄い。ああ言えばこう言う口の達者さはもとより、毒舌、奔放、めちゃくちゃ。小4の人生の目標が酔生夢死ってどんだけ(笑)。28000円のカバンを買ってもらうために大声で賢一を誘拐犯だ虐待だと騒ぐなんてものは序の口。正義感は強いから間違った大人に堂々と注意するなんてこともしちゃうミドリ。引率者としては爆弾抱えて歩いてるみたいなもんだよなあ。でも、買ってもらったカバンは大事にするし、いいもの食べさせたら本当に美味しそうに食べる。可愛いっちゃ可愛いかも。言葉が汚いのはどうかと思うけど、いきなり長老が乗り移ったり刑事になったりするところは面白かったな。憎めない感じ。ところで、賢一がずっと「兄ちゃん」って呼ばれるの嫌がって「伯父さんと呼べ」と怒ってたけど、普通そうなのかなあ?私も兄も叔父のこと名前で読んでるし義叔母のことは「姉ちゃん」って呼んでるんだが。旦那も自分の伯父たちのこと名前にちゃん付けしてるし。まあ親密度によるんだろうが皆さんはどうですか。
 
そしてラスト、深水さんらしく事態は大きく変化。かなり衝撃だったけど、理想的な選択をしてくれてホっとした。世の中お金や教育は大事だが、ああいう環境で暮らすほうが精神的に良くないと思うわ。他人であろうと一緒に暮らして自分の存在をなくてはならないものだと思ってくれる人が1人でもいる人って強いよ。
 
ただ、これ作品批判とは違うんだけど、現代なのに雰囲気が平成初期の日本みたいな感じなんだよね。電車に乗ってる女性ブランドバッグ皆持ってるとか、街頭で風俗求人のティッシュ配りまくってるとか(東京はそうなのかい?)。他にも色々違和感あるけど、深水さんの知識が20年前で止まっているような、世間ズレしてるのかなって感じの描写が結構多かったりする。子どもを1週間預けるのに母親からの挨拶が一度もなかったり。まあ真相がアレだったからそういう人なのかな。その代わり、美術や語学の知識がやたらつくからありがたくてトントンかな。

美人薄命  (ねこ3.7匹)

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深水黎一郎著。双葉文庫

弁当配達のボランティアで老婆・カエと出会った、大学生の総司。家族を失い、片目の視力を失い、貧しい生活を送るカエは、愛し合いながらも結ばれなかった男との思い出を語り始める。その悲しい恋物語には、総司の人生すら一変させる、壮絶な秘密が隠されていた。衝撃の結末が待ち受ける、長編純愛ミステリー。(裏表紙引用)
 
深水さんを読破していこうと思い始めて、この作品だけはタイトルも表紙もそそられなくてどうしようかなと考えていたが…読んで良かった、面白かった。
 
一人暮らしの老人の家に月2回お弁当を届けるボランティアを始めた大学生の総司。単位や卒論目的だけに最初はいい加減な気持ちを持ってやっていたが、配布先の1つであるカエさんと知り合ってから心に変化が生じ始める。…という導入なので、最初は「カエさんと心を通わせいい加減だった総司が成長していき…」という結末を想定していた。もちろんそういうお話なのだが、そこは深水さん。しっかりと予想の斜め上をいく「その後」の展開が用意されていた。戦後のカエさんの苦労話の章が旧字ばかりで読みにくかったし内容的にも不幸すぎて苦痛だったのだが…そこに深い意味があったとは。
真相にも驚きだったし、カエさんの女心や総司のカエさんを想う気持ちにホロリ来てしまった。最後まで読んで良かったなあ~。
 
ただ、総司のキャラクターがどうも馴染めなかった。心の中で思っていることが子どもっぽいし、憧れの女性に対していきなり沙織ちゃん呼び……この沙織ちゃんのエピソードがあまりにもステロタイプすぎて…この子の存在、必要だったかなあ?途中退場するし。(どうでもいいが、デパートのブランドの財布ってセキュリティ万全だから万引きできないよ)周りの人が総司を最初から認めていた、というのも違和感ありありだったなあ。こういうタイプにいきなり大東亜戦争の薀蓄語られても。。仲間たちにボランティアについて演説して引かれるくだりも、そりゃそうじゃない?と思った。昨日までそれに興味がなかった人間がいきなり立派なこと言いだしたら…誰だって胡散臭いと思うと思う。最後の最後にすごく純粋ないいやつになるけど、最初がひどかったからその変化が伝わってこなかった。ミステリ的にはすごくいいのに、総司のキャラだけはいただけなかったな。ただ、カエさんはとても魅力的だった。この人のミステリアスで人懐っこい人柄のおかげでだいぶ救われたお話だったと思う。

言霊たちの反乱  (ねこ3.7匹)

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深水黎一郎著。講談社文庫。

平和な休日、婚約者が突然怒り狂う。路上では外国人に殴られ、ファミレスでは麻薬取引現場に遭遇。ついに凶悪テロの首謀者として手配される。原因は全て言葉の聞き間違いと勘違いだった。古の人々が崇敬し畏怖した言葉に宿る「霊力」が現代人を陥れようとしているのか。驚愕の言葉トリック・ミステリに震えよ! (裏表紙引用)
 
深水さんの日本語ネタ短編集?こういうの書くんだ、深水さん^^;一篇目を読み始めたとき一瞬本を投げつけたくなったが、読んでるうちに結構楽しくなってきたという。。
 
「漢は黙って勘違い」
 いわゆる、聞き間違いネタ。「関を入れる(籍を入れる)」「若狭がいい(若さがいい)」などなど。主人公やその周りの人々の極端な聞き間違いによって、人間関係が崩壊していくお話。バカだよなあ、と思いながらもその果てにこんな結末が待っていたとは…ちょっと感心した。
 
「ビバ日本語!」
自称カリスマ日本語教師が外国人に日本語を教えるのがどんなに難しいかを滔々と語る話。ここに書いてある日本語の性質を読むだけで、どんだけ日本語が複雑かが分かる。「生」の読み方は158通りもあるってホント?それにしても、この主人公、カリスマと言う割に教え方がひどい。イライラするのは分からなくもないけれど、「ぱぱ父」はないだろう^^;英語が苦手でスミス氏との会話が成り立っていないのも面白かった。まあ向こうもひどいもんだけど。。
 
「鬼八先生のワープロ
文芸評論家の小田嶋はひどい悪筆で、ワープロが壊れては仕事にならない。そこで敬愛する鬼八先生のワープロを拝借することになったが…。「山田シフト」なんて初めて聞いた。どういう配列なんだろ。で、鬼八ワープロの誤変換が全部エロっていうなんだこのネタ^^;こういう文章に萌えるってよっぽどファンなんだな。。おおべしみが登場?してちょっとうれしい。
 
「情報過多涙腺刺激性言語免疫不全症候群」
要は「クサい言葉アレルギー」のことだそうな。友人の浅井が、テレビショッピングの台本を書いているので日常の言葉までお世辞大げさのオンパレード。主人公のアレルギーのひどさにビックリ。まさかこんな大事件になるとは。。でもテレビってこれぐらいやりそうだよね。。
 
以上。
まあ、深水氏のいつもの作風を期待しなければなかなか楽しめるのでは。サクっと読めるし、全部がなんとなく繋がってるのが良かった。おふざけ全開だけど、こういう言葉遊びって相当教養と発想力がないと描けないと思うので凄いのは凄いと感心した。

ガイコツは眠らず捜査する/The Skeleton Takes a Bow  (ねこ3.8匹)

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レイ・ペリー著。木下淳子訳。創元推理文庫

大学講師の母と高校生の娘、動いて喋る骸骨シドの三名が暮らすサッカリー家。娘マディソンが所属する演劇部の舞台に、シドも(頭蓋骨だけ)出演することになった。ところがある日、彼女はうっかりシドの頭を学校に忘れてしまう。翌日、回収されたシドは意外なことを言いだした。夜に講堂で殺人事件が起きたというのだ。母ジョージアはシドのため事件を調べることに……。母娘と骸骨の絆、デコボコ捜査が楽しい、痛快ミステリ第2弾。(裏表紙引用)
 
一作目ですっかり気に入ってしまった骨ミス第2弾。
 
前作の流れから、今回は娘のマディソンがシドの存在を知っているし、シドをいないものとして否定していたデボラがしぶしぶシドを受け入れている状態へシフト。ジョージアとシドだけの関係、というのが実は結構好きだったのでどうなるかな~と思ったけど、思わぬ三角関係になってしまって新しい展開。これはこれで楽しいかな。デボラはもうちょっと優しくしてくれてもいいのになあ~。
 
事件のほうもまた本格的で、シドが講堂で知ってしまった殺人事件をいかに事件化するかが読みどころ。頭蓋骨だけのシドしか目撃(耳擊?)していないので、通報するにもどう言えばいいかわからない。ジョージアも結構どんくさいというか、先走るところがあるので色々失敗しつつ。女性と女の子と、あとはホネだもんね。ピンチになったらもう頭脳で助かるしかない。大学や受験に関わる事情や裏の犯罪が明らかになるにつれて、ジョージアの世界も色々大変だな~と。ただでさえ保護者や先生たちとの関係が複雑なのに、帰ったら子育てとホネの世話。。そしてシドが社会にどんだけ参加したいかが伝わってきて胸がきゅっとなるシーンも。だからラストは希望が持てるな。続編絶対邦訳して欲しい。

たけまる文庫 謎の巻  (ねこ3.8匹)

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我孫子武丸著。集英社文庫

業界初(のはず)の話題(のはず)の個人文庫、第二回配本分にして堂々の完結巻はミステリ短編を集めた「謎の巻」です。ファンおなじみの速水三兄妹のあいかわらずの推理が冴える「裏庭の死体」。2017年の東京湾を舞台に、ある有名な刑事の決死の活躍を描く「バベルの塔の犯罪」。自分自身の行動調査を探偵に依頼する不思議な中年男「青い鳥を探せ」など傑作八編。(裏表紙引用)
 
先日読んだ「怪の巻」と対になっている本。あれだね、「怪」はその名の通りホラー短編集って感じだったけど、こっちはミステリーメイン。だって一篇目があの速水三兄妹ものだったんだから。いちおとかめっちゃ懐かしい…。自宅の庭に埋められて毒殺されていた男の、妻の鉄壁のアリバイを崩すお話で、ちゃんとミステリしてる。ちょっとバカミス入ってるが…。
 
次の「バベルの塔の犯罪」はSFチックでちょっとよくわからなかったけど、続く「花嫁は涙を流さない」「EVERYBODY KILLS SOMEBODY」「夜のヒッチハイカー」「青い鳥を探せ」「小さな悪魔」はホラーテイストを交えつつ意外な結末を楽しめる作品で、割と好きなタイプのジャンルだった。「怪×謎」と言ってもいいんじゃないかな。ラスト「車中の出来事」は騙し合いに次ぐ騙し合いで、頭がこんがらがったが…。
 
というわけで(どう)、なかなかレベルの高い作品集だったかな。「怪」よりこっちが断然オススメ。